政権復帰後、5年目に入った安倍晋三首相が施政方針演説で「新しい国創り」を表明した。
国際情勢が不透明さを強める中、演説序盤から対外関係に焦点をあてたのは妥当な判断だ。
トランプ米新大統領の就任に半日、先立つタイミングとなり、新政権の針路を見極めきれないという制約はあったろう。
だとしても、不確実性を超えて日米がその絆をどう強めていくかについて、より踏み込んだ言及がほしかった。
日米同盟の重要性や日本の役割を、引き続き内外に表明していかなければならない。
首相は日米同盟に関し「外交・安保政策の基軸」「不変の原則」と語り、トランプ氏との早期会談に意欲を示した。
アジア太平洋地域における抑止力の向上へ、具体的にどう取り組むか。海洋進出を続ける中国の脅威に対処する方策をめぐり、突っ込んだ協議が行われなければならない。
自由や民主主義などの価値観を共有する国を重視する「ぶれない外交」の推進を強調したのは当然だ。だが、これと並行して、日露関係の強化を図ることとの整合性は説明しきれていない。
首相は憲法改正について、衆参両院の憲法審査会で議論を深めるよう呼びかけた。
時代の変化に即し、日本の国力を高めていくために何が必要か。現実的な観点から、改正項目の絞り込みにつなげてほしい。
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)同様に重要なのは、保護主義の潮流が加速するのを食い止め、自由貿易の活力を享受していくことにある。
TPPについて、トランプ氏は「撤退」を唱え、その発効は困難な情勢にある。
米国の復帰をどう見極め、その他の参加国とどのような形で協議に入るかなど、新たな対応を打ち出す時期ではないか。「今後の経済連携の礎」との位置づけを繰り返しているだけでは説得力をもたない。
アベノミクスについては「経済の好循環が生まれている」と改めて自賛した。ただ、経済は力強さに欠け、消費税再増税の環境は整わない。
眼前の「壁」を越えるには、規制緩和などの構造改革の着実な実施が欠かせない。