偽造収入印紙を密輸したとして関税法違反などの罪で起訴され、拘置所に勾留されていた指定暴力団山口組系の50代の組長が、娘の結婚式に出席したいとして勾留の執行停止を申請し、大阪地裁(末弘陽一裁判官)が挙式当日の5時間半に限って認めていたことが10日、関係者への取材で分かった。刑事訴訟法は、裁判所が適当と認めるときに勾留を停止できると規定。これまで本人の病気や葬儀参列のために認められたケースはあるが、慶事では極めて異例だ。
関係者によると、勾留が停止されたのは5月中旬。地裁が弁護人、警察官の同行を条件に、式が開かれる関西のホテルへの一時滞在を認める決定をした。同時に申請された保釈は認めなかった。
大阪地検は被告が暴力団幹部であることなどから停止に反対したとみられるが、不服申し立ての準抗告はしなかった。検察関係者は「葬式のために勾留が停止されることはまれにあるが、結婚式は聞いたことがない。山口組は抗争中でもあり、今回の件は理解しがたい」と疑問を呈した。
今回と類似するケースでは奈良県で昨年11月、覚せい剤取締法違反容疑で逮捕された男について、親族の葬儀に参列させるため勾留が停止されたが、男が停止中に逃走を図り、3日後に確保される事件があった。
■「理解し難い決定」
暴力団問題に詳しい垣添誠雄弁護士(兵庫県弁護士会)の話「今は全国で暴力団抗争の緊張感が高まっている有事の状態。組幹部が式場で対立勢力から襲撃される可能性も否定できず、一般市民が巻き込まれて負傷しないという保証もない。今回の裁判所の判断には大きな違和感がある。反社会的勢力の個人的な祝い事のために、警備の人員や費用をかけることも市民には理解され難い」