信条の突き押し相撲を貫いた先に初金星が待っていた。琴勇輝はもろ手でどんっと日馬富士へ突進。右、左のど輪、右押し、と休まず攻めきった。3度目の挑戦にして初めて横綱を倒した。
勝ち名乗りを受け、土俵の上で懸賞金の束を受け取りながら涙がこみ上げてきた。「ケガをして辛かったときもある。すごいうれしい」。苦難の過去が頭をよぎった。
3年前の九州場所6日目。「左膝蓋腱断裂、前十字靱帯損傷」の大けがを負って途中休場し、すぐに手術を受けた。医師から「もう相撲を取るのは無理かもしれない」とも言われた。直後はまっすぐ歩くことすらできなかった。
折れかけた心は、病院で他の患者と一緒にリハビリを続ける中で前向きに変わった。「自分は競技復帰できるかどうかだけど、自分の足で人生に1回歩けるかどうかの戦いをしている人がいるんですよ」
だからこそ早期復帰を目指した。まだ完治にほど遠かった翌年3月の春場所。師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)へ出場を志願した。「自分は相撲を取るために生まれてきたんです」。その気迫に親方も認めざるを得なかった。
再び土俵に戻ってからちょうど2年。最高位で歓喜の瞬間を迎えた。「諦めないで頑張っていれば、いいこともあるんだ」。苦労人は見事、復活を果たした。(藤原翔)