「宗教的な神様を僕は信じないけれども、その上に世の中を動かしている存在がやっぱりあるんじゃないかと思うんですね。何かの意志がないと、こんなに精緻な世界ができるわけがない。だって人間が今こうやって動いていること自体が不思議でしょ?」
突然ふって湧いた問題意識ではない。読心能力を持つ美貌の女性が主人公の『エディプスの恋人』(昭和52年刊)では、人間の恋情さえ自在に操る「宇宙意志」の存在を描いている。
「父親の蔵書や母親の着物を売り飛ばしたり…という不良少年時代があったんですけどね(笑)。だからなのか、これを上にいる神様のようなものが見ていたらどう思う?なんてしょっちゅう考えてましたね。それで神学や哲学を自分なりに勉強してきた。まあ、でもそれからも悪いことはしてましたけど(笑)」
最後の長編?
本作を載せた『新潮』の昨年10月号は異例の増刷を記録し話題を呼んだ。〈おそらくは最後の長篇〉という本人のツイートも気になるところだ。
「今までの作品のいろんなものが入っている。『最後の作品』と思うからできることですよね」
ベストセラー『文学部唯野教授』を連想させるGODの軽薄な語り口は、難解な哲学論議におかしみを生む。淡い恋物語『時をかける少女』に似たセリフも出てきて甘く切ない空気に包まれる瞬間もある。過去の自作、さらには小説そのものへの深い愛に彩られているのも本作の魅力といえる。