米大リーグでは、ビデオ判定の適用範囲が徐々に拡大。近い将来、ストライク、ボールの判定にも適用されるとみられ、さらなる正確なジャッジが期待されている。
ただ、いいことばかりでもない。正確すぎるがゆえに、弊害が出ているのが現実。今年、よく見られたのは走塁や盗塁でスライディングしたときのビデオ判定だ。
選手は勢いよくベースに滑り込む。タイミングは完全にセーフ。しかし、ここで守備側の監督が試合を止めて、映像を確認し、チャレンジを申し込む。球場にいる誰もが完全にセーフなのにと感じながら、映像を見ると…。がく然とする。
たとえば一走が盗塁で二塁に足から滑り込み、審判がセーフと判定。走者はスライディングの勢いのまま立ち上がろうとして、足が二塁ベースから一瞬宙に浮くことがある。そこを狙って野手がタッチ。これがアウト、というわけだ。
今年はヤンキースを取材していて、ジョー・ジラルディ監督(51)がこのようなチャレンジをするシーンを何度も見た。緊迫感のある試合を止めて、揚げ足をとるようなビデオ判定は、ルールの範囲内でやっているとはいえ、どこか興ざめしてしまう。
同様のことがプレーオフでもあり、波紋を呼んだ。ア・リーグのリーグ優勝決定シリーズ第4戦のブルージェイズ対ロイヤルズ。ロ軍のアレックス・リオス外野手(34)が二盗で足から滑り込み、タイミングは悠々とセーフだったが、ブ軍がチャレンジ。映像を見ると、やはり立ち上がるときに足がベースから数センチ浮き、そこで野手がタッチ。セーフからアウトに判定が覆った。短期決戦に水を差すような雰囲気が球場に流れた。
指摘したブ軍のジョン・ギボンズ監督(53)は「選手は激しいスライディングをするし、ベースに触れ続けるのは簡単ではない。もちろん、このルールで救われることもあるが、正直なことをいえば、あまり好きではない。ビデオ判定の適用範囲だとは思わない」と本音を語る。
「新たにスライディング技術を磨くべき」「野手が走者にタッチし続けるよう指導しろ」と、ビデオ判定ありきの議論まで出てきている。現場レベルでは、勝つためならルール内でなんでもやるのが当然。MLBが早急に見直しを検討すべき議題といえそうだ。(米大リーグ担当、峯岸弘行)