国際オリンピック委員会(IOC)総会の取材で、しばらくマレーシアの首都クアラルンプールに出張していた。ひと月近くたった今でも、総会最終日の記者会見で耳にしたある質問が印象に残っている。
質問の主は中国中央テレビの女性記者だった。IOCが進めるインターネット放送「五輪チャンネル」に関する問いの中で、「中国には問題がある」と述べたのだ。中国ではユーチューブやツイッターなどが遮断されている。こうした厳しいネット規制を、国営メディアが公の場で批判したことに驚いた。
中国教育省が昨年末に発表した統計では、1978年以降、海外留学した中国人は累計で300万人を超えている。2014年に米国の大学や大学院に在籍した中国人留学生は約33万人とのデータもある。
見聞を広め、それなりの地位に就いた留学経験者が、中国のさまざまな規制や問題に苦言を呈さないのは何故なのか。日本で学んだという50代前半の男性が、「若い連中は共産党の恐ろしさを知らない」と、口をつぐむ理由を語ってくれたことがある。負けない事、投げ出さない事、逃げ出さない事、信じ抜く事。「それが一番大事」と歌ったヒット曲がある。言論の自由に触れたはずの中国人留学生に、この曲を贈りたい。(川越一)