「男の子も女の子もみな宝物」。大型客船が転覆した長江の事故現場に近い湖北省監利。政治的スローガンに交じって、こんな看板を見かけた。「女の子は親密に(親に)寄り添う」と意味ありげに続いている。
地元の白タク運転手に聞くと、「この辺りの農村は貧しいから仕方ない」と言葉を濁した。中国内陸部の農村では今も、労働力にも跡継ぎにもならないと考えて、女の子はすぐ養子に出すか、出生届を出さずコッソリ育てるのだという。
1980年代からの一人っ子政策で2人目以降の出産には多額の罰金が待っていた。出生届のない子供は当然、戸籍がなく、就学もできない。「黒孩子(ヘイハイズ)」と呼ばれる。
黒孩子は中国の4年前の公式見解で1300万人に上る。実際は数億人との見方もあるが、政府の実態把握や救済が進んだとの話は聞かない。当局が子供はみな大切と唱える標語を掲げて戒めるのがやっとだ。一方で転覆事故。発生から2週間近くたち、当局は生存者の数を当初の14人から12人に訂正した。
十数人の生存者をどう数えたら数え間違いが起きるのか不思議だが、農村部で闇に埋もれながらも生き続ける千万単位、億単位の子供の存在すら把握できていない。転覆現場近くのスローガンをみて暗澹(あんたん)たる思いになった。(河崎真澄)