その他の写真を見る (1/3枚)
相手の健闘をたたえるように、白鵬が倒れ込んだ安美錦に手を貸した。結びの大熱戦を目の当たりにし、満員の館内は沸きに沸いた。16秒8の攻防で、相撲巧者のベテランは動きを止めずに横綱へ襲いかかった。
白鵬の突き押しを安美錦は右へ、左へと回りながらこらえた。右差し左上手に組み止め、上手出し投げで後ろ向きに。勝負は決したか、と思われたが、横綱は体を回転させて抵抗。食らいついて前進したが、逆転の突き落としに屈した。
あと一歩まで追い詰めたが、安美錦は「勝ちたかった」と漏らす。そして「付け人が辞めちゃったから」と続けると、こみ上げてくるものをこらえ切れず、何度もタオルで目元を拭った。
関取になってから、ずっと支えてくれた元幕下の扇富士が先場所限りで引退。15年以上という長い期間、同じ付け人と過ごすというのは珍しい。それだけ思い入れがあった。
恩人に届けたかった金星はつかめなかったが、「2人で考えてきたことはできたかな。本当に勝ちたかったけどね。明日から頑張るよ」と気持ちを切り替えていた。
先場所痛めた右膝は完治せず、左膝にも古傷がある。36歳はそれでも勝利への執念をむき出しにした相撲を取り続ける。だからこそ、見る者は心を打たれるのだろう。(藤原翔)