ベルリンの壁崩壊と冷戦終結から四半世紀がたち、自由と民主主義の勝利は世界の基調となった。だが、この1年は冷戦後の国際秩序を揺るがす脅威が、日本を含む自由主義諸国に向けられた。
軍事力で隣国ウクライナを蹂躙(じゅうりん)したロシアであり、東シナ海や南シナ海での覇権主義を隠さない中国のことだ。国際ルールや地域の平和と安定を軽視し、力による現状変更を狙う勢力が、鮮明にその姿を現した。
「法と正義」の価値観を守る戦いは、戦後70年となる2015年も続く。
≪中露の野望を阻止せよ≫
ウクライナ南部のクリミア半島を併合したロシアは、ウクライナ東部の親露派勢力への軍事支援を続けた。明白な主権侵害に対して米欧は対露制裁を科したが、ロシアは北大西洋条約機構(NATO)の攻撃能力などを脅威とみる「修正軍事ドクトリン」を発表して反論した。世界を冷戦時代に引き戻すかのような動きである。
自由と民主主義、法の支配に基づく価値観外交を唱える安倍晋三首相は、その一方でプーチン露大統領との個人的信頼関係を重視している。対露制裁で欧米に後れを取る印象も与えた。
北方領土問題を抱える日本固有の立場と、普遍的な価値観をどう両立させるかという難題に引き続き取り組まなければならない。
地域の安全保障や経済秩序に大きな影を落とすような、中国の動きもより顕在化した。
尖閣諸島奪取を狙う中国は、11月に安倍首相と習近平国家主席との初の首脳会談が実現した後も、自国の公船による日本領海侵入を繰り返している。
東シナ海上空に中国が一方的に設定した防空識別圏では、中国軍機が自衛隊機に異常接近する一触即発の事態が生じた。南シナ海では米軍の対潜哨戒機を威嚇した。米政府が「明白な挑発行為」と非難した意味は重い。
中国は「九段線」と呼ぶ独自に引いた境界を根拠に南シナ海の領有権を主張し、係争海域にある岩礁の軍事拠点化も急いでいる。
「アジアインフラ投資銀行」の設立を仕掛けるなど、軍事面のみならず経済的覇権への意図にも警戒を強めなければならない。
日本にとっての大きな誤算として、制裁を一部解除してまで再開した北朝鮮との政府間協議で、思ったような成果を挙げられなかったことを挙げざるを得ない。
「夏の終わりから秋の初め」と約束された日本人拉致被害者に関する再調査の初回報告は、ほごにされたままだ。国連では人権問題をめぐる北朝鮮非難決議の採択にこぎ着けたが、北は決議を主導した日本を「焦土化」するなどと威嚇している。協議の進展をどのように図っていくかが問われる。
≪自由貿易への姿勢示せ≫
厳しさを増す国際環境の中で、いかに繁栄を取り戻し、より確かな安全保障体制を実現するかを日本は突き付けられている。重要なステップとして、集団的自衛権の限定行使容認という判断に踏み込んだのは画期的だ。日米同盟による抑止力強化に欠かせない。
それを具体的に実現するための関連法案の成立と、「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」改定は来年の重要課題だ。
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉は、日米の対立がネックとなって膠着(こうちゃく)状態にある。アジア太平洋地域の新たな貿易・投資ルールとなるTPPには、台頭する中国を牽制(けんせい)する戦略的な狙いもある。
アベノミクス路線を進める安倍政権は、デフレ脱却を確実にするため消費税の再増税を延期した。成長戦略の柱に位置付けたTPP交渉の妥結は極めて重要だ。自由貿易拡大も、世界で推進すべき重要な価値観だ。それに取り組む姿勢は内外から問われよう。
終戦70年の節目を、中国は「抗日戦争と反ファシズム戦争の勝利70年」とし、ロシアとも連携して大々的な反日宣伝を仕掛けてくる構えだ。韓国も慰安婦の「強制連行」に固執し、歴史認識で中国と歩調を合わせるだろう。
これらの国の宣伝戦で「歴史修正主義の安倍政権は戦後体制を否定している」との誤った認識が欧米の一部に浸透し始めている。
力による国境線や現状の変更は認めない戦後の国際秩序の根幹を侵しているのは一体誰なのか。日本が世界に発すべき点だ。