日曜に書く

論説委員・長辻象平 始まるか、北半球の寒冷化

 ◆IPCCと異なる見解

 「地球は間違いなく寒冷化に転じると思いますよ」

 大気海洋地球物理学者の中村元隆さんは断言する。海洋研究開発機構の主任研究員だ。

 早ければ数年後に、北半球が寒冷化に向かう変化が起きる可能性が高いという。そうした予測を含む研究論文を6月末に発表している。

 国連の「気候変動に関わる政府間パネル(IPCC)」による最新版の将来予測とは、真反対の見解だ。

 IPCCは今世紀末までに最大ケースで2・6~4・8度の気温上昇を予測している。

 中村さんも二酸化炭素などによる温室効果を認めているが、それを打ち消す気温の低下を見込んでいるのだ。

 北半球の寒冷化を予告することになった論文名は「グリーンランド海の表面水温変化とそれに伴う北半球の気候変容」。意外なことに、内容のポイントは1980年ごろからの温暖化への転換点の解明なのだ。

 ◆寒冷化危惧した70年代

 団塊の世代以上の人なら覚えているだろう。

 1940年代から70年代にかけて気候は、寒冷化していたのだが、80年代以降、温暖化に転じ現在に至っている。

 その転換は何によるものか。中村さんは、米海洋大気庁や英国気象庁などの過去からの大量の観測データを分析した。

 その結果、79年2月から3月にかけて、北極に近いグリーンランド海の表面水温が一気に2度も上昇し、周辺の大気の流れに影響が及んで、温暖化への引き金が引かれていた事実に行き着いた。

 北大西洋では、海面水温が約70(±10)年周期で、ほぼ35年ごとの上昇、下降を繰り返し、北半球全体の気候に影響を及ぼす「大西洋数十年規模振動」という現象が知られている。

 過去からの振動のデータは、ちょうど80年ごろから、約35年間続く温暖化の時期に入ることを示しており、そこに79年の水温急上昇が加わったのだ。

 1980年から数えて35年後は2015年にあたるので、そのころグリーンランド海で水温変化の可能性があるという。

 「この大西洋数十年規模振動は、大西洋熱塩循環流という海水の流れと密接に関係しています」と中村さんは説明する。

 北極の寒気で冷やされた低温・高塩分の海水は、重くなって沈み込み、深層流となって北極海から大西洋に南下する。そのスタート地点がグリーンランド海なのだ。

 この流れに連動し、暖かい熱帯域の海水が北大西洋の表層を北上するので膨大な熱量が運ばれて、気候に強く影響する。

 グリーンランド海は、地球の海水循環における心臓のような存在だ。だから、その水温変化は大きな意味を持っている。

 気候変動シミュレーションの高精度化には、数理モデルに、グリーンランド海を舞台とする変化のプロセスを正確に表現することが不可欠らしい。

 ◆いま気温は高止まり中

 「現代は、世界中が地球温暖化を危惧していますが、1940年代からは気温が下がり、60~70年代には、地球寒冷化が騒がれていました」

 中村さんの言う通り、当時は「氷河期へ向かう地球」「飢えを呼ぶ気候」といった図書が多数出版されている。

 「当時は既に二酸化炭素の排出が増えていました」。だが、大西洋数十年規模振動が下降期だったので、温室効果の影響は消し去られていたようだ。

 80年代からの温暖化は、振動の上昇期と二酸化炭素の影響が合わさった結果のはずだが、IPCCは原因を後者にのみ求める見方を強める一方だ。

 地球温暖化問題は、排出量取引などの金融メカニズムや南北問題とも関係し、国際政治交渉の課題と化している。冷戦構造消失後の世界の緊張軸という見方も可能だ。

 ところで、猛暑が続く日本では実感しにくいが、世界の平均気温は、この10年ほど上昇が停止している。

 中村さんによると、この高止まりは、大西洋数十年規模振動が上昇期から下降期に転じるカーブの頂点だ。

 これから20年後の北半球は、どんな気候になっているのだろうか。太陽研究者の間では、百数十年ぶりの太陽の磁場活動の低下が気温低下との関連で注目されている。

 ここ数年、冬の寒さが戻ってきている。気象庁の長期予報では今冬も寒くなるらしい。(ながつじ しょうへい)

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