シャラポワ選手、リオ絶望…禁止薬物、本当に「知らなかった」?

人気、実力ともにトップクラスの“ロシアの妖精”、テニスのマリア・シャラポワ選手が禁止薬物服用で2年間の出場停止処分となった。本人は、服用は「医療目的」で「過失」だったと主張するが、禁止薬物「メルドニウム」をめぐる背景から、主張の不可解な点が浮かび上がる。

《マリア・シャラポワ(Maria Sharapova)選手》
1987年ロシア生まれ。9歳で米国に渡り、後に錦織圭選手も学ぶアカデミーで腕を磨く。2004年、17歳で英ウィンブルドン選手権初優勝を成し遂げ05年に初の世界ランキング1位に。12年全仏で四大大会制覇(生涯グランドスラム)を達成するなど四大大会通算5勝。2016年はけがなどを抱え、全豪OPの準々決勝で敗れてから試合には出場していない。

シャラポワ選手「2年間の出場停止処分」決定

意図的でなかったと認めつつも「過失の責任を負う必要」(ITF)

国際テニス連盟(ITF)は6月8日、シャラポワ選手に対し、2年間の出場停止処分を科したと発表。報告書は、意図的な違反でなかったと認めた上で「彼女自身が重大な過失の責任を負う必要がある」と結論付けた。処分期間は1月26日から2018年1月25日まで。ITFは同選手に対し3月12日から暫定的な資格停止処分を科していた。

シャラポワ、2年間の出場停止、メルドニウム陽性で 女子元世界ランク1位 テニス

リオ五輪は絶望的、全豪OP8強とランキングポイントも無効

2年間の出場停止処分により、8月のリオデジャネイロ五輪出場は絶望的となり、競技復帰へ厳しい立場に立たされた。全豪オープン8強の結果とランキングポイントも無効となり、同大会で得た賞金の返還を求められる。ロシア・テニス連盟は5月、リオ五輪の代表に同選手を選出したと発表したが、ITFの処分が解除されない場合は補欠選手と入れ替える方針を示していた。

シャラポワ、メルドニウム陽性で2年資格停止 リオ絶望的

シャラポワ選手、スポーツ仲裁裁判所に提訴する意向

シャラポワ選手は自身のfacebookで「違反は故意でなく、2年間の不当に厳しい処分は受け入れられない。できるだけ早くコートに戻れるよう闘いたい」と声明を出し、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴する意向を表明した。

「過失責任はシャラポワ選手に」国際テニス連盟報告書 ドーピング違反

薬物違反を公表(3月)

意図的な摂取を否定した上で「全ての責任を負う」

3月7日、マリア・シャラポワ選手が会見し、ドーピング検査で、禁止薬物の「メルドニウム」に陽性反応が出たことを公表。意図的な禁止薬物の摂取は否定した上で「ファンやテニスという競技の信頼も失墜させてしまった。全ての責任を負う」と悲痛な覚悟を示した。

シャラポワ禁止薬物 「全ての責任背負う」テニス界の女王、悲痛な覚悟

3月2日に国際テニス連盟から違反通知を受け取り発覚

問題の検査は1月26日、全豪オープンの準々決勝でセリーナ・ウィリアムズ選手に敗れた試合の後に実施された。シャラポワ選手が国際テニス連盟(ITF)から、その結果を知らされたのは3月2日だったという。

シャラポワ、薬物違反で出場停止の暫定処分へ〔2016年3月8日 CNN〕

引退は否定「もう1度チャンスを与えてほしい」

シャラポワ選手は会見で「大きな間違いを犯した。もう1度チャンスを与えてほしい」と、今後も競技を続ける意向を示し、引退は否定した。

シャラポワ、全豪OPでドーピング陽性「大きな間違いを犯した」 引退は否定

「過失」を主張…選手の言い分とは

医師に処方され2006年から服用、理由は「心電図の異常」「糖尿病の兆候」

シャラポワ選手側の弁護士は、同選手がメルドニウムを含む薬を使い始めたのは医師が処方したためと説明。同選手が頻繁に体調を崩す原因を突き止めるため「大量の検査を重ね」、結果、「心電図に異常があり」「糖尿病の兆候もいくらかあった」という。

テニスのシャラポワ選手、薬物陽性に〔2016年3月8日 BBC JAPAN〕

10年にわたり服用も、薬の物質名は最近知った

同選手は医師に処方され、2006年から継続的にメルドニウムを服用していた。「体調が良くなったし、だから服用し続けた」と話すが、薬の名前は「ミルドロネート(Mildronate)」で、物質名が「メルドニウム(Meldonium)」であることはITFの通知で知ったという。

シャラポワ禁止薬物 「全ての責任背負う」テニス界の女王、悲痛な覚悟

禁止薬物に指定されたことは「知らなかった」

シャラポワ選手は、メルドニウムが2016年1月から禁止薬物に指定されたことを「知らなかった」と釈明。2015年12月22日に世界反ドーピング機関(WADA)から、新たに禁止される薬のリストを電子メールで受けとっていたが、「クリックしなかった」という。

シャラポワ、薬物違反で出場停止の暫定処分へ〔2016年3月8日 CNN〕

3月7日、米ロサンゼルスで記者会見する女子テニスのマリア・シャラポワ選手(ゲッティ=共同)

3月7日、米ロサンゼルスで記者会見する女子テニスのマリア・シャラポワ選手(ゲッティ=共同)

本当に「禁止リスト入り」知らなかったのか?

メルドニウムの使用禁止化には事前のステップがあった

メルドニウムは使用禁止になる以前、スポーツにおける乱用パターン把握のため、2015年1月1日からWADAの「監視」対象になった。「禁止」リスト入りは同年9月に承認されていた。WADA元委員長も「(使用を)やめる時間はたっぷりあった」と鋭く指摘する。

ロシアの妖精がメルドニウムでドーピング陽性!スポーツ界を揺るがすドーピングについて〔2016年3月8日 MEDLEY〕

女子テニス協会、ITF、WADAから少なくとも計5回の通達と英紙報道

英タイムズ紙は、シャラポワ選手は「少なくとも」「計5回」、禁止薬物リスト更新の通告を受けていたと報じた。彼女が確認しなかったとする電子メールのほか、ITF、女子テニス協会(WTA)、WADAから電子メールや文書、口頭などで伝達しされたという。

シャラポワ5回通告受けていた 釈明会見は大ウソか メルドニウムの禁止薬物指定

未承認の米国内で処方してもらっていた

米国ではメルドニウムは未承認。WADA元会長は英BBCの取材に応じ、シャラポワ選手は自分の住む米国で「医療目的であっても、基本的には使えない物質を摂取していた。つまり、処方していた医師がいる」と話し、禁止化に注視していなかったことに疑問を投げかけた。

WADA元会長、シャラポワは「言葉にできないほど無思慮」〔2016年3月9日 AFP〕

医師を含む周囲のスタッフまで気付かなかったのか…

サッカージャーナリストの石井紘人氏は、トップレベルの選手が優れた医師のサポートを受けていないとは考えにくいとし、その上で、毎年更新される禁止薬物リストに医師を含む周りのスタッフまで気づかないものなのかと疑問視する。元選手の杉山愛さんも「彼女だけのミスとも言えない」と話す。

シャラポワ「禁止薬物と知らなかった」 「うっかりドーピング」重すぎる代償〔2016年3月8日 J-CAST〕

《厳しさ増すテニス界のドーピング検査》

WADAとITFによる反ドーピングプログラムでは、検査官が抜き打ち検査を行うため、対象選手は向こう3カ月間の全行動予定をITFに報告しなくてはいけない。毎日の予定を1時間単位で記載し変更があった場合は報告する。検査は深夜や早朝に行われることが多く、選手たちの不評も買っている。

シャラポワ薬物違反から見える問題点 厳しさ増すテニス界のドーピング検査〔2016年3月8日 Sportsnavi〕

本当に「医療目的」だったの?…「メルドニウム」とは

心臓疾患の治療薬。一方で競技能力向上につながる薬でもある

抗虚血薬で、日本では馴染みがないが、ロシアなどでは狭心症や心筋梗塞などの心臓疾患などの治療に使われている。一方で、血液循環や心身的ストレスなどに対する作用から競技能力の向上につながる薬でもある。

ロシアの妖精がメルドニウムでドーピング陽性!スポーツ界を揺るがすドーピングについて〔2016年3月8日 MEDLEY〕

競技能力向上目的で使用された事実が確認され、2016年から禁止薬物に

メルドニウムは2016年1月1日から、WADAの「ホルモン調節薬および代謝調節薬」の項目に追加された。実際に同物質が禁止リストに追加された経緯は、競技力能力向上目的でアスリートによって使用された事実があったためという。

ロシアの妖精がメルドニウムでドーピング陽性!スポーツ界を揺るがすドーピングについて〔2016年3月8日 MEDLEY〕

そもそもソ連時代に兵士の耐ストレス性向上の薬として開発された

米ワシントン・ポスト紙は3月8日、メルドニウムは「ソ連時代、アフガニスタンに進攻した兵士がストレスに耐えられるよう開発された特殊な薬」で、現在も「東欧を中心に販売」され、ロシアでは容易に入手できるという。独ケルン体育大の論文には、当初、動物の成長促進剤として開発されたとの指摘も。

シャラポワが使った禁止薬物は“ソ連兵の秘薬” 露スポーツ界では一般的

競技力向上を目的に開発されたという疑惑もある

旧ソ連と東欧諸国には本来の目的から逸脱し、競技力向上を目的とした薬剤開発が行われていた形跡があり、メルドニウムにもその疑惑がかけられている。

グレーゾーン開発疑惑の「メルドニウム」持久力向上や疲労回復に効果〔2016年3月9日 スポニチ〕

スポーツ界ではその効果は広く知られている

独ケルン体育大による論文では、多様な種目の選手を対象に行った尿検査で、8320検体のうち2.2%が陽性を示したという。またWADA元委員長は「テニス界でも広く使われていた」との見方を示している。

シャラポワ禁止薬物 「10代からなぜ医師が処方」医療目的で10年服用、WADAが疑問視

長期間にわたり摂取する必要がない薬ともいわれる

WADA現委員長は「基本的に心臓疾患などの治療に使われる薬」とし、「10代からどうして…処方してもらう必要があったのか」とシャラポワ選手の服用期間を疑問視した。また元委員長は「この種の薬物の長期にわたる服用は禁忌」と話し、メルドニウムは長期間にわたる摂取が必要ない物質だったために禁止薬物に指定したと説明する。

シャラポワ禁止薬物 「10代からなぜ医師が処方」医療目的で10年服用、WADAが疑問視

「治療使用特例」を申請すれば医療目的での使用継続も可能だった

WADAが禁止薬物と規定しても、中には禁止薬物を使わないと病気の治療ができない選手もいる。その場合、選手は「治療使用特例(TUE)」を申請できる。シャラポワ選手も今後の対応として申請するとみられる。

テニスのシャラポワ選手、薬物陽性に〔2016年3月8日 BBC JAPAN〕

東欧では旧ソ連時代から使われていたとされるメルドニウム(AP)

東欧では旧ソ連時代から使われていたとされるメルドニウム(AP)

《治療使用特例(TUE)》

禁止物質や禁止方法であっても、例外的に使用できるように承認を受けること。承認条件は(1)治療上、使用しなければ健康に重大な影響を及ぼすことが予想される(2)他に代えられる合理的な治療方法がない(3)使用しても、健康を取り戻す以上に競技力を向上させる効果を生まない(4)ドーピングの副作用に対する治療ではない―こと。

忘れてはいけない、TUE(治療使用特例)申請〔PLAY TRUE by JADA〕

ロシアに根強く残る「ドーピング文化」

ロシア陸上界での組織的ドーピングの事実

WADAは2016年11月、ロシアの陸上界で組織的なドーピングが横行していると認定した。同国は1400を超える検体を廃棄するなどしていた。背景として、ロシアにはメダルの数が国力を示すとの考えが根強いことなどが挙げられる。

ロシア、五輪出場停止も 陸上組織的ドーピング〔2015年11月10日 日刊スポーツ〕

違反コーチが現在も指導を継続か…WADAが検証へ

ロシアの組織的ドーピングをめぐり、ドイツの公共放送は3月6日、違反に関与したコーチが現在も指導を続けている実態や、禁止薬物の販売に関わるコーチの存在を指摘。WADAは7日、新たな疑惑を検証する方針を示した。

シャラポワ禁止薬物 WADA、新疑惑を検証へ ロシアで指導継続のコーチ

《リオ五輪出場の可否がかかるロシア陸連》

国際陸連はロシア陸連に資格停止処分を科しており、調査チームが2016年1月から現地調査を開始。3月の理事会で8月のリオデジャネイロ五輪出場の可否を判断する最初の報告書を提出する予定。

シャラポワ禁止薬物 WADA、新疑惑を検証へ ロシアで指導継続のコーチ

1月以降、メルドニウム違反相次ぎ「新指針」も

ロシア以外の国を含め170件超

WADAによると、特にロシアのトップ選手の違反が相次いでいるが、4月13日現在、ロシア以外の国も含め、メルドニウムの違反は172件に上っている。

世界反ドーピング機関 メルドニウムでガイドライン 1マイクログラム以下は容認

「3月1日以前の検査で1マイクログラム以下なら容認」(WADA)

WADAのリーディー委員長は4月13日、メルドニウムの違反がこれまで172件となり、3月1日以前のドーピング検査で検出量が1マイクログラム以下とごく少量の制限範囲だった場合は容認する見解を発表。検出量が制限範囲の選手は処分が回避され、五輪など大会への道が開けることになる。

世界反ドーピング機関 メルドニウムでガイドライン 1マイクログラム以下は容認

WADA、薬物の体内残存期間の調査を継続中

WADAのリーディー委員長は「全員が免除されるわけでない」とし、摂取した薬物が体内に残存する期間の調査を継続中。メルドニウムを製造するラトビアの会社は「体内から完全に排出されるには数カ月を要する」との見解を示している。

WADA、メルドニウム違反で新見解 1マイクログラム以下なら容認〔2016年4月13日 スポニチ〕

《「長者番付」11年連続でトップのシャラポワ選手》

2015年8月に米フォーブス誌が発表した女子アスリートの長者番付でシャラポワ選手は11年連続のトップに君臨。推定年収は2970万ドル(約33億5200万円)に及ぶ。そのうち2300万ドル(約20億3790万円)がCMへの出演などスポンサー契約関係だった。

シャラポワが禁止薬物…最大4年間出場停止 スポンサー続々撤退へ

注目まとめ

    アクセスランキング

    もっと見る

    ピックアップ

      どう思う?

      「どう思う?」一覧

      注目のテーマ