「淫行条例」なかった長野県、ついに成立…賛否が割れた背景は

全国で唯一、18歳未満の子どもとの性行為を処罰する条例を持たなかった長野県。7月1日、ようやく条例が県議会で可決、成立したが、県民の間などでは賛否が大きく割れた。

《淫行条例(淫行罰則規定)》
18歳未満の男女との「みだらな行為」などを処罰する規定を設けた条例で、地方自治体の「青少年健全育成条例」に盛り込まれているのが一般的。東京都では違反した場合、「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金」とし、自治体により罰則内容は異なる。

長野県ついに「淫行条例」成立

「子どもを性被害から守るための条例」が可決、成立

長野県議会で7月1日、「子どもを性被害から守るための条例」が可決、成立した。施行は7日の予定。処罰規定など一部は11月1日に施行される。

子供の性被害防止条例成立 唯一なかった長野県で

18歳未満との性行為やわいせつ行為、深夜の連れ出しが罰則対象

条例では、威迫や欺きなどで大人が18歳未満の子どもに対して行った性行為やわいせつ行為について、2年以下の懲役または100万円以下の罰金を科すと規定。深夜の連れ出し(午後11時~翌日午前4時)も30万円以下の罰金とする。

長野県子どもを性被害から守るための条例案の概要〔長野県(pdf)〕

知事「一人でも多くの子供が救われるようにしたい」

条例成立後の記者会見で阿部守一知事は「教育や被害者支援も規定した全国でも例のない総合的な条例。一人でも多くの子供が救われるようにしたい」と語った。

子供の性被害防止条例成立 唯一なかった長野県で

全国で唯一「淫行条例」がなかった

条例に頼らず、「県民運動」で性被害を防止する伝統があった

長野県では長年、淫行処罰規定を含む青少年健全育成条例に頼らず、地域や学校の大人たちが繁華街を見回るなどの「県民運動」で、子どもを性被害から守ってきたという伝統があった。

子どもの性被害防止条例、長野県で成立〔2016年7月1日 朝日新聞〕

しかし、教諭逮捕などの事件相次ぎ…県に条例化を求める動き

長野県によると、子供の性被害に関連した検挙数は1999年の30人から2013年には94人と増加。条例化に踏み切っている東御市でも教諭が相次ぎ逮捕され、県に条例化を求める動きが出ていた。

青少年保護条例 これまでなかった長野県も「必要と判断」〔2016年2月1日 毎日新聞〕

「女の子と遊ぶなら長野県」との“風評被害”も

淫行処罰条例を持たないゆえに、ネット上では「女の子と遊ぶなら長野県」と書き込まれる不本意な“風評被害”も。大人のモラル低下もあいまって、県はこれまでの健全育成施策の見直しを迫られる形となった。

長野「子どもを性被害から守るための条例」成立 多くの県民の願い結実

長野県の阿部知事は2月、県として条例を制定する方向で取り組む方針を示し、「ネットや携帯電話が普及する中で子供の性被害が増え、看過できない状況にある」と強調した。

知事「被害は看過できない状況」

長野県の阿部知事は2月、県として条例を制定する方向で取り組む方針を示し、「ネットや携帯電話が普及する中で子供の性被害が増え、看過できない状況にある」と強調した。

「子供を性被害から守る条例」制定方針を決定 長野県知事会見詳報

長野県「淫行条例」をめぐる動き
1960~70年代 淫行の処罰規定を設けた条例が全国に広がるなか、当時の西沢権一郎知事が「条例に頼らず住民一丸となって青少年を守る」方針を掲げる
2007年 東御市が県内で唯一、淫行処罰規定を盛り込んだ条例を制定
2012年 東御市で女子高生とみだらな行為をしたとして同条例違反で教諭2人が逮捕される
2013~2014年 県が外部有識者による「子どもを性被害等から守る専門委員会」を設置、「条例は必要」との提言を受ける
2015年2月 県民の議論を深めるため、条例モデルの検討会を設置
2015年9月 検討会が条例モデルを公表、阿部知事が県議会で「県民の理解を得られれば」条例を制定する方針を示す
2015年11月 阿部知事が条例制定の是非について県議会2月定例会までに判断すると表明

朝日新聞より

条例化、賛否真っ二つ

賛成派「性被害に遭う子供が現実に出ている」「罰則はもっと厳しくていい」

6月の県議会では、自民党県議団などの賛成派は「青少年健全育成に関わる団体からも早期制定が求められている」「罰則はもっと厳しくていい」「性被害に遭う子供が現実に出ており、罰則が必要だ」と条例制定を求めた。

共産党県議団、修正案提出へ〔2016年6月29日 産経ニュース〕

反対派「真摯な恋愛に捜査機関が踏み込むことに」「冤罪が発生する可能性」

これに対し、反対派の共産党県議団からは「真摯な恋愛に捜査機関が踏み込むことになる」「冤罪が発生する可能性がある」「条例案に頼ってこれまで青少年健全育成を支えてきた県民運動が衰退する」とする慎重論が出された。

市民団体代表、「魂の殺人」性被害の実情訴え〔2016年6月10日 産経ニュース〕

「県民運動は限界」「規制よりも教育が必要」県民の意見も割れる

1月の県民と知事の意見交換会では、「教育県だから(健全育成を)県民運動で行ってきているけど限界にきている」と条例制定を求める声と、「処罰はいらない。規制よりも教育が必要」という慎重論が聞かれた。

知事と若者が意見交換 長野〔2016年1月13日 産経ニュース〕

「異常な状態からの脱却」(産経新聞)

産経新聞は、県は「県民運動」で青少年育成を進めてきたが、ネットの普及で子供たちが出会い系サイトなど性被害に遭うケースが急増した、と指摘。罰則規定のある条例を持たない“異常”な状態からの脱脚に向けて前進した、と論じた。

「条例必要」県が方針決定〔2016年2月2日 産経ニュース〕

「戸惑う声もある」(信濃毎日新聞)

信濃毎日新聞は、県が「真摯な恋愛」は規制しないと答弁していることに対し「真摯な恋愛とは何か、主観的なものになる」と戸惑う声もある、と指摘。恋愛に捜査機関が踏み込んだり、冤罪を生んだりする心配は消えていない、と主張する。

青少年の条例 懸念に答えていない〔2016年2月3日 信濃毎日新聞〕

事例で見る「淫行条例」 

「淫行条例」ないために…摘発できなかった事例17件20人

長野県警は昨年2月、淫行を処罰するための条例がないために摘発できなかった事例が2013~14年の2年間で17件20人あったと公表した。

「淫行被害」2年で17件 長野県警公表〔2015年3月27日 産経ニュース〕

中3男子買春で罰金10万円のみ…「条例があれば起訴できた」

長野県内で2014年、男子中学生(15)と性的行為に及んだとして無職女性(35)が逮捕された。女性は児童買春については不起訴、脅迫容疑で起訴され、罪は罰金10万円のみ。捜査関係者は「もし条例があれば、淫行容疑で起訴できたはずだ」と話す。

主婦が中3男子を買春…淫行条例ない県の“顛末”

条例違反で逮捕も「真剣に交際していた」と無罪判決(愛知県)

愛知県で2007年、交際中の当時17歳の女子高生と性行為をしたとして30代の男性が青少年保護育成条例違反容疑で逮捕され、後に無罪に。名古屋簡裁は「2人は真剣に交際していた」として、条例が処罰対象にした淫行に当たらないと判断した。

処罰では何も解決しない 青少年の条例〔2016年1月24日 信濃毎日新聞〕

女子高生に淫行で逮捕、無理強いなく「普通の恋愛では?」疑問の声(千葉県)

千葉県で2009年、男子大学生(20)が女子高生(17)への淫行で逮捕された。しかし大学生が無理強いしたり、お金を払ったりした事実はなく、「普通の恋愛では?」とネットで疑問の声が相次いだ。警察は「恋愛関係はなかった」と説明。

「無理強いなく、金も払わず」でなぜ 大学生の淫行逮捕に疑問相次ぐ〔2009年5月14日 JCASTニュース〕

他の自治体では

全国の自治体で導入「淫行条例」、「見せてはならない」の規定も

各都道府県では、青少年健全育成条例に「何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない」などと盛り込まれ、罰則はさまざま。福岡県などでは「何人も青少年に対し前項(いん行又はわいせつな行為)の行為を教え、又は見せてはならない」と規定している。

香川県が初めて制定、東京都は2005年に罰則規定を追加

淫行処罰条例は1952年、香川県が初めて制定。長野とともに条例がなかった東京都も2005年、都青少年健全育成条例を改正し、淫行を罰する規定を追加した。

質問なるほドリ 淫行条例なぜ長野県で検討?〔2016年3月8日 毎日新聞〕

《東京都の「淫行罰則規定」》

「東京都青少年の健全な育成に関する条例」では、青少年に対する反倫理的な性交等の禁止として、第18条6項に「何人も青少年とみだらな性交又は性交類似行為をしてはならない」規定。罰則は「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金」とされている。

東京都青少年の健全な育成に関する条例〔東京都〕

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