英南部で行われたイベントに出演したプリンスさん=2011年7月(ロイター=共同)

プリンスさんの命を奪った…鎮痛剤「オピオイド」とは

4月に急死した米人気歌手のプリンスさんの死因が、オピオイド系鎮痛剤の過剰摂取であることが判明した。日本ではなじみがないが、米国ではその乱用が社会問題となっている「オピオイド」とは?

《プリンスさん急死》
4月21日、「パープル・レイン」など数々のヒット曲を生み出した米人気歌手のプリンスことプリンス・ロジャーズ・ネルソンさんが米ミネソタ州の自宅兼スタジオで急死。57歳だった。プリンスさんはスタジオのエレベーターの中で意識を失って倒れているのが見つかった。〔CNN

プリンスさん、鎮痛剤の過剰摂取で死亡

オピオイドの過剰摂取が招いた「事故死」と断定

米ミネソタ州の検視官事務所は6月2日、急死したプリンスさんについて、極めて強い鎮痛作用を持つオピオイドの過剰摂取が招いた「事故死」との検視報告を公表。使用が判明したのは、末期がんの痛みの治療に使われる合成オピオイドの「フェンタニル」で、検視報告はプリンスさんが自分で投与していたと判断。

プリンスさんの死因は、鎮痛剤の過剰摂取 「事故」と断定

薬物を処方していた者など医師2人が捜査線上に浮上

AP通信は、医師少なくとも2人が米麻薬取締局(DEA)などの捜査線上に浮上していると報道。うち1人は開業医で、4月7日と死亡前日の同月20日にプリンスさんを診断、薬剤を処方したと当局に話したという。もう1人は薬物依存治療の専門医で、プリンスさんの関係者が同月20日に相談していた。

プリンスさん、死因は医療用麻薬の過剰摂取 検視当局 〔2016年6月3日 日本経済新聞〕

急死の6日前、ジェット機を緊急着陸させ一命をとりとめていた

米メディアは、プリンスさんは急死する6日前、鎮痛剤パーコセットの過剰摂取により危うく死にかけたが、乗っていた自家用ジェット機を緊急着陸させ、「セーブショット」とみられる応急注射で一命をとりとめたと報じていた。プリンスさんは、コンサートなどで高い場所から飛び降りるなどして腰を痛めており、鎮痛剤を頻繁に使用していた

プリンスさん検死「死因はフェンタニルの過剰摂取」〔2016年6月3日 日刊スポーツ〕

薬物依存症の専門医の息子が自宅を訪れるも間に合わず

4月20日にプリンスさんの関係者から依頼を受けていた、薬物依存治療の専門医は都合がつかず、代わりに息子をプリンスさん宅に派遣。この息子はオピオイド依存症の治療薬を持参していたが、医師資格を持っていなかった。

プリンスさん、死因は医療用麻薬の過剰摂取 検視当局 〔2016年6月3日 日本経済新聞〕

《マイケル・ジャクソンさん急死も薬が原因》

2009年に自宅で心肺停止状態で急死した故マイケル・ジャクソンさんのケースは、多くの医師らが違法に不必要な薬を処方していたことがわかっている。麻酔薬の急性中毒や、睡眠鎮静剤を複合的に使用したことが死因とされており、主治医は過失致死で有罪判決を受けている。

プリンスさん、友人医師から処方薬を過剰に入手か〔2016年4月30日 日刊スポーツ〕

「オピオイド」はどんなクスリ?

鎮痛作用をもつ「医療用麻薬」の総称

法律で医療用に使用が許可されている麻薬は「医療用麻薬」といい、薬理学的に、それらは、オピオイド(Opioid)鎮痛薬というグループに分類される。モルヒネに類似する作用を持つ物質で、植物由来の天然のオピオイド、合成・半合成のものなどがある

がんの痛みの治療に使用される鎮痛薬〔がんの痛みネット〕

もともとアヘンから作られた

オピオイド鎮痛剤はもともと、植物のケシ(Opium poppy)からつくられた。ケシの実から採集されるアヘン(Opium)は古来から麻薬として使われていた。その一方で、製薬会社はアヘンから各種オピオイド鎮痛剤を開発していった。

米国で蔓延する「オピオイド系鎮痛剤の中毒」〔2016年4月23日 WIRED〕

がんの痛みに強力な効果ある薬も

鎮痛効果の違いによって、「強オピオイド」と「弱オピオイド」の2つに分けられる。モルヒネに代表される「強オピオイド鎮痛薬」はがんの痛みに対し最も強力な鎮痛効果がある。プリンスさんが過剰摂取していたフェンタニルは強オピオイドに属し、強さはヘロインの25~50倍、モルヒネの50~100倍とされる。

がんの痛みの治療に使用される鎮痛薬〔がんの痛みネット〕

オピオイド鎮痛薬の種類と剤形

鎮痛効果の強さによる分類 成分名 剤形
強オピオイド 硫酸モルヒネ 錠、徐放カプセル、粉薬、カプセル
(同上) 塩酸モルヒネ 錠、粉薬、注射、内服液、座薬
(同上) オキシコドン 徐放錠、粉薬、注射
(同上) フェンタニル 貼り薬、注射
弱オピオイド コデイン 錠、粉薬
非オピノイド アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、インドメタシン

オピオイド鎮痛薬の種類と剤形の工夫〔がんの痛みネット〕

治療目的以外で使用した場合、簡単に依存症を生じる

滋賀県立成人病センター緩和ケアセンター長の堀泰祐氏によると、オピオイド鎮痛剤は「痛みの治療目的以外で使用した場合、簡単に依存症を生じてしまう…。痛みのない健康な人が別の目的で用いることは、非常に危険」と話す。

医事雑感/94 適切な使用で「良薬」に /滋賀〔2015年10月6日 毎日新聞〕

米国では過剰摂取や乱用が社会問題化

1年間で2億回も処方、91年の約3倍

長尾和宏氏によると、米国では、オピオイド鎮痛薬は、手術後のような急性の疼痛から、さまざまな原因によって3カ月以上も続く慢性の疼痛まで、幅広く使用されている。全米でオピオイドが1年に処方された数は1991年の7600回から2013年には2.07億回まで増加。

《1901》 米国でのオキシコドンの使用実態〔2015年7月5日 朝日新聞〕

鎮痛剤依存症は190万人(2013年)

米政府によると、2013年、約190万人の米国人がこうした鎮痛剤の依存症だったという。オキシコドンについては世界中の消費者の81%は米国人と報告されているほどで、医療目的以外で使用した人の70%が、家族や友達からもらったり買ったりしているという

米国で蔓延する「オピオイド系鎮痛剤の中毒」〔2016年4月23日 WIRED〕

処方オピオイドの過剰摂取は約1万9千件(2014年)

AP通信によると、米国では2014年に1万9千件近い処方オピオイドの過剰摂取が発生、ヘロインも加えると計2万9千件を超えた。

プリンスさん、死因は医療用麻薬の過剰摂取 検視当局 〔2016年6月3日 日本経済新聞〕

薬物の過剰摂取による死亡者数、2014年に過去最高の4万7055人

米疾病対策センター(CDC)によると、2014年の米国内における薬物の過剰摂取による死亡者数は計4万7055人の過去最高を記録し、前年比は14%増。車の衝突での死亡者の1.5倍に達する水準という。2000年以降、200%増の約50万人に達したとされる。

薬物の過剰摂取の死亡者、過去最高を記録 米CDC〔2015年12月27日 CNN〕

死者数の60%がオピオイド服用者

オピオイドの過剰摂取によって、昏睡状態や呼吸困難な状態に陥り、死に至るケースは年々増加し。米CDCによると、2014年のオピオイド過剰摂取による死者は2万8647人に上り、1日78人が死亡していることになるうえ、薬物中毒の死者数の60%がオピオイド服用者という。フェンタニルは、米国では不法製造品が出回っているともとも。

1日78人ずつ死亡…鎮痛剤の過剰摂取 米国で社会問題化 プリンスさん急死で注目

大量の薬剤を処方する「ピルミル」も問題

長尾和宏氏によると、米国では「ピルミル(pill mills)」と呼ばれる悪質なペインクリニックが問題になっている。ピルミルとは「大量の薬剤を処方する医師や診療所」の呼称で、行政の監督下にないため、医療目的以外であっても不適切に強い鎮痛薬を処方しているのが実態。

《1901》 米国でのオキシコドンの使用実態〔2015年7月5日 朝日新聞〕

米CDC、服用のガイドラインを発表(2016年3月)

米CDCは2016年3月、オピオイド服用の開始の目安や頻度などに関するガイドラインを発表。米食品医薬品局(FDA)もオピオイドのラベルに過剰摂取や依存の危険性を表示するよう義務付ける。産経新聞は「プリンスさんの死で、より効果的な対策を求める声が増えそうだ」と指摘する。

1日78人ずつ死亡…鎮痛剤の過剰摂取 米国で社会問題化 プリンスさん急死で注目

日本で問題化の可能性は?

強オピオイドのモルヒネ、日本の消費量は「少ない」

オピオイド鎮痛薬であるモルヒネについて、2012年の1人当たりの年間平均消費量(mg)は、世界158カ国のうち日本は42位。世界平均は6.3mgで、日本は平均のほぼ半分の3.2mgで、「やはり常に少ない消費量」と長尾和宏氏。

《1901》 米国でのオキシコドンの使用実態〔2015年7月5日 朝日新聞〕

がん患者などがオピオイドを使用しても「依存にはならない」(丸山一男氏)

三重大医学部の丸山一男教授は、痛みのある患者がオピオイドを使用しても「(多幸感をもたらす)ドーパミンの量はマイナスだったのが普通になる程度。決して依存にはならない」と話す。

「依存症になる」の誤解蔓延 痛み治療が〝中毒〟にならないメカニズム〔2015年8月14日 産経ニュース〕

「腰痛など慢性的な痛みに用いるのは心配」(松本俊彦氏)

国立精神・神経医療研究センター部長の松本俊彦氏は「腰痛や関節痛のような慢性的な痛みにオピオイド系鎮痛薬を用いるのは心配だ」とオピオイドの常用に懸念を示す。

鎮痛薬適応拡大の危うさ〔2015年10月29日 毎日新聞〕

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