噴火した新岳の山頂付近=29日午後、鹿児島県の口永良部島(本社チャーターヘリから・鈴木健児撮影)

口永良部島噴火 犠牲者を1人も出さなかった一番の理由

口永良部島の新岳の爆発的噴火では、犠牲者が一人も出なかった。島は薩南諸島最大の「火山島」で、昭和以降だけでも噴火を10回近く経験し、積み上げた教訓がある。昨年8月、34年ぶりに噴火した際には、防災マップを見直して避難場所を変更するなど、対策を練り上げたことも安全な避難に寄与した。

《鹿児島・口永良部島で爆発的噴火》
5月29日午前9時59分ごろ、鹿児島県屋久島町の口永良部島で爆発的噴火が発生、気象庁は10時7分に噴火警報を発令し、噴火警戒レベルを3(入山規制)から5(避難)に引き上げた。屋久島町は同日午前10時15分、口永良部島の島民約130人に対し島外への全島避難指示を出した。

屋久島町が全島避難

「おい、噴火したぞ。口永良部に急げ」

 口永良部島で爆発的噴火の発生直後、屋久島町教育委員会職員、岩川健さん(33)に上司から声がかかった。「おい、噴火したぞ。口永良部に急げ」
 3月まで町の防災担当だったため、荒木耕治町長と一緒に、県防災ヘリに乗り込むことになった。何も考える余裕はなかった。
 午後0時20分すぎ。山頂に白煙が見えてきた。山の南西斜面一帯は火山灰で白く覆われていた。次第にヘリの中は張り詰めていく。
 避難所に入ると、町出張所の職員と協議を始めた。
 「脱出の方法はどうしようか。タイムスケジュール通りに迅速にやらないといけないよね」
 「そうだな。でも、焦らないようにしないといけないよな」
 そんな会話が交わされた。島民はとるものもとりあえず、高台の避難所に避難していた。「あそこに住んでいたあの方はどうなったのかしらねえ」などと住民らが声を出し合う。その数は121人を数えた。
 午後1時半だった。町長は「皆さん、午後3時までには港に集まってください。落ち着いてくださいね」と声をかけると、住民らは落ち着いた表情で避難所を後にした。
 口永良部島には警察官も消防士もいない。消防団が島を守っていた。彼らと一緒に、安否確認を急いだ。
 「そいれにしても、思ったよりは早く安否を確認できたんです。地域のコミュニティーがしっかりして、日ごろからコミュニケーションが取れていたこと。これが、犠牲者を1人も出さなかった一番の理由だと思います」

屋久島町教委職員「おい、噴火したぞ。口永良部に急げ」 防災ヘリで島へ

本村港に到着した「フェリー太陽」。奥には噴火した新岳が見えた=29日午後、鹿児島県の口永良部島(本社チャーターヘリから・鈴木健児撮影)

本村港に到着した「フェリー太陽」。奥には噴火した新岳が見えた=29日午後、鹿児島県の口永良部島(本社チャーターヘリから・鈴木健児撮影)

口永良部島噴火 犠牲者ゼロ 昭和以降で10回近く噴火経験 生きた教訓

口永良部島が噴火

気象庁が警戒レベル5に引き上げ

29日午前9時59分ごろ、鹿児島県屋久島町の口永良部島で爆発的噴火が発生、気象庁は10時7分に噴火警報を発令し、噴火警戒レベルを3(入山規制)から5(避難)に引き上げた。屋久島町は同日午前10時15分、口永良部島の島民約130人に対し島外への全島避難指示を出した。

口永良部島噴火 火砕流も、全島避難勧告 警戒レベル初の「5」

《口永良部島(くちのえらぶじま)》

鹿児島県の屋久島の西方に位置する島。屋久島や種子島などとともに大隅諸島を形成する。東西2つの火山体が結合された火山島で、東部の新岳・古岳周辺では多くの噴気穴が見られる。照葉樹林などで覆われた景観から「緑の火山島」と呼ばれ、全域が屋久島国立公園に指定されている。住民は約130人。

犠牲者ゼロ 昭和以降で10回近く噴火経験 生きた教訓

島には警察官や消防士がいない

鹿児島県屋久島町によると、島には警察官や消防士がおらず、医師も今年4月にようやく1人が常駐を始めた。島民を守っているのは消防団で、今回の噴火でも島民の安全確認に尽力したという。

口永良部島噴火 犠牲者ゼロ 昭和以降で10回近く噴火経験 生きた教訓

これまでの噴火の経験

同町の森山文隆総務課長は「これまでの噴火の経験が生きている。今回の避難準備も、受け入れ体制も整っていた」と話す。

口永良部島噴火 犠牲者ゼロ 昭和以降で10回近く噴火経験 生きた教訓

島に唯一ある学校「金岳(かながたけ)小中学校」

金岳(かながたけ)小中学校では児童・生徒16人、教諭11人がいるが、昨年の噴火以降、教諭の車を校舎脇に止めてすぐに避難できるようにした。島全体の防災マップもあったが、昨年の噴火を受けて見直し、地区ごとの避難ルートを詳細に作成。避難場所も新岳から遠く離れた高台にある既存の建物に設定し直した。

口永良部島噴火 犠牲者ゼロ 昭和以降で10回近く噴火経験 生きた教訓

噴煙を上げる鹿児島・口永良部島=29日午前10時8分、鹿児島県屋久島町(水中写真家・高久至さん撮影)

噴煙を上げる鹿児島・口永良部島=29日午前10時8分、鹿児島県屋久島町(水中写真家・高久至さん撮影)

口永良部島噴火 噴火から全島民避難までの流れ

砂防・地すべり技術センター研究顧問の池谷浩氏

火山の周囲や火砕流が流れた西側には、ほぼ集落がない。過去の経験や科学的知見を生かし、住民が危険の高い地域を避けて暮らしていたことが、死者が出なかったことにつながった。気象庁もすぐ警戒レベルを引き上げ、町も迅速に避難指示を出せた。海上保安庁が避難用の船を出すなど行政が連携し、早々に避難できたことは立派だ。

口永良部島噴火 「早々に避難、立派」砂防・地すべり技術センター研究顧問の池谷浩氏

地域のコミュニティーと、日ごろのコミュニケーション

身の回りの必需品だけを持って

29日に鹿児島県屋久島町の口永良部島で突然、発生したきた爆発的噴火の口永良部島噴火を受け、島民は屋久島へと130人全員が身の回りの必需品だけを持って、避難してきた。

口永良部島噴火 「もう1回、爆発が来たらどうしよう」おびえる子供たち

口永良部島・新岳が噴火し、避難のため屋久島に到着、自衛隊員に支えられて下船する住民=29日午後、鹿児島県の屋久島・宮之浦港

口永良部島・新岳が噴火し、避難のため屋久島に到着、自衛隊員に支えられて下船する住民=29日午後、鹿児島県の屋久島・宮之浦港

口永良部島噴火 「もう1回、爆発が来たらどうしよう」おびえる子供たち

噴火から全島民避難までの流れ

9・59ごろ 口永良部島の新岳で爆発的噴火が発生。火砕流が海岸まで到達
10・7 気象庁が噴火警報を発表。噴火警戒レベルを3(入山規制)から5(避難)に引き上げ。鹿児島県と屋久島町が災害対策本部をそれぞれ設置
10・15 安倍晋三首相が住民の安全確保の徹底や火山の観測の強化を関係各所に指示。屋久島町が口永良部島の島民に全島避難勧告。5分後に全島避難指示に切り替え
10・35 鹿児島県知事が総務省消防庁に緊急消防援助隊の出動要請
10・40ごろ 鹿児島県が防衛省に災害派遣要請。これに先立ち、陸海空自衛隊がヘリコプターなどを現地に派遣
11・30ごろ 気象庁が記者会見。今後も大規模な噴火が起きる可能性があると発表。この時点で全島民の無事を確認。後に72歳男性が前額部のやけど、82歳男性が体調不良と判明
11・50 屋久島の宮之浦港から口永良部島に住民の避難用フェリー臨時便が出発
12・10 湯向地区以外の島民約120人が、避難用フェリーを待つ避難所に到着したことを確認。湯向地区の住民らは海保の船舶などが救助へ
14・30ごろ 政府調査団の赤沢亮正内閣府副大臣ら5人が鹿児島入りし、伊藤祐一郎知事と会談
15・40ごろ 避難所の島民ら約120人が避難用フェリーに乗り込み出港。海保や県の防災ヘリなどで避難した島民らを含め、島にいた全137人が避難
17・30ごろ ェリーが屋久島に到着し、避難が完了
本村港に到着した「フェリー太陽」=29日午後、鹿児島県の口永良部島(本社チャーターヘリから・鈴木健児撮影)

本村港に到着した「フェリー太陽」=29日午後、鹿児島県の口永良部島(本社チャーターヘリから・鈴木健児撮影)

口永良部島噴火 噴火から全島民避難までの流れ

噴火に対しても心の準備はできていた

「最初は地震の横揺れかと思ったら、ゴーッと音がして。すごく怖かった。台風かなあと思ったんです」(中学2年)

口永良部島の爆発的噴火が発生したその瞬間、金岳中学2年の二神遼君(14)は数学の中間テストの真っ最中だった。4月に避難訓練があったばかりで、噴火に対しても心の準備はできていた。それでも、「逃げるのに精いっぱいでした」

口永良部島噴火 「ゴーッ」児童ら恐怖 中学生らテスト中に避難

噴火直後の口永良部島。金岳小・中学校の校庭で撮影した=29日午前10時、鹿児島県屋久島町(住民提供)

噴火直後の口永良部島。金岳小・中学校の校庭で撮影した=29日午前10時、鹿児島県屋久島町(住民提供)

口永良部島噴火 「ゴーッ」児童ら恐怖 中学生らテスト中に避難

子供たちの冷静で整然とした行動

「子供たちは皆、疲れていたんでしょうね。でもその動きは迅速ですごかった。すべては避難訓練などがしっかりしていたことの証でしょうね。感心しました」(金岳小・中学校の司書補、永田和子さん)

口永良部島噴火 「もう1回、爆発が来たらどうしよう」おびえる子供たち

口永良部島・新岳が噴火し、屋久島の避難所で連れてきた子猫にミルクを与える中学生=29日午後、鹿児島県の屋久島

口永良部島・新岳が噴火し、屋久島の避難所で連れてきた子猫にミルクを与える中学生=29日午後、鹿児島県の屋久島

口永良部島噴火 「もう1回、爆発が来たらどうしよう」おびえる子供たち

児童生徒らも静かに横になり、特に混乱はなかった

金岳小中学校の木尾良文校長(53)によると、避難初日の29日は午後10時半ごろに消灯。児童生徒らも静かに横になり、特に混乱はなかった。ただ、自らはあまり寝付けず「備えができていないので、長期の避難生活になるのが不安だ」と声を落とした。

口永良部島噴火 不安で眠れぬ夜 避難住民ら「こんなこと初めて」

噴火からわずか2分

噴火は午前10時前に起きた。金岳小・中学校の司書補、永田和子さんは理科室で本の整理をしていた矢先だった。ガラスが揺れるのに気付いた。すぐに身構えた。校長先生の「すぐに避難して」の声が聞こえた。校舎そばには教諭らが事前に、マイカーをすぐに逃げられるよう、向けていた。小学生10人、中学生6人は赤いヘルメットをすぐにかぶり、車に走った。体操着にスリッパ姿でまさに着の身着のまま。その間、噴火からわずか2分だった。

口永良部島噴火 「もう1回、爆発が来たらどうしよう」おびえる子供たち

それでも不安で眠れぬ夜

住民らの多くは一変した環境の下…

鹿児島県の口永良部島での噴火の終息が見えない中、屋久島に避難した住民らの多くは一変した環境の下、深い眠りにつくことがないまま30日朝を迎え、今後の生活への不安を訴えた。

口永良部島噴火 不安で眠れぬ夜 避難住民ら「こんなこと初めて」

避難所で一夜を明かし、犬も疲れた表情で飼い主を見つめる=30日午前、鹿児島県屋久島町の宮之浦公民館(川口良介撮影)

避難所で一夜を明かし、犬も疲れた表情で飼い主を見つめる=30日午前、鹿児島県屋久島町の宮之浦公民館(川口良介撮影)

口永良部島噴火 不安で眠れぬ夜 避難住民ら「こんなこと初めて」

屋久島の婦人部らが炊き出し

「いつ噴火するか分からないことは分かっていた。受け入れ側として同じ町民だし、しっかりご飯を作りたい」(地元の婦人部・石田屋美佐子さん)

屋久島の施設「宮之浦公民館」では、地元の婦人部10人が口永良部島から避難してきた島民を出迎え、炊き出しを行った。

口永良部島噴火 「しっかりご飯を作りたい」屋久島の婦人部らが炊き出し

避難してきた島民をお出迎え

午後3時に公民館に集まった女性らが腕を振るったメニューは塩サバに唐揚げ、漬物とおにぎり、豚汁。80人分を作った。他の避難所からも夕ご飯を食べに来る人もいた。避難してきた島民らは温かい食事で、やっと心を落ち着かせたようだった。婦人部の1人、石田屋美佐子さん(56)は「どうぞどうぞ」と精いっぱい、笑顔を作り、せわしくしていた。

口永良部島噴火 「しっかりご飯を作りたい」屋久島の婦人部らが炊き出し

口永良部島から避難し、提供された食事をとる住民ら =29日午後、鹿児島県屋久島町の宮之浦公民館 (門井聡撮影)

口永良部島から避難し、提供された食事をとる住民ら =29日午後、鹿児島県屋久島町の宮之浦公民館 (門井聡撮影)

口永良部島噴火 「しっかりご飯を作りたい」屋久島の婦人部らが炊き出し

平成26年にも発生していた

昭和55年9月以来の噴火が発生

新岳は昨年8月3日、昭和55年9月以来の噴火が発生。気象庁は、5段階で示す噴火警戒レベルを最も低い1からレベル3(火口周辺規制)に引き上げ、住民や滞在者が島外に避難した。

口永良部島噴火 火砕流も、全島避難勧告 警戒レベル初の「5」

噴火への警戒が続いていた

今年3月には、平成16年3月の遠望カメラの観測開始以降で初めて、高温の溶岩や火山ガスなどが噴煙や雲に映り明るく見える「火映」も観測。気象庁は機動観測を派遣するなどして、噴火への警戒が続いていた。

口永良部島噴火 火砕流も、全島避難勧告 警戒レベル初の「5」

火山性地震の観測も1カ月で50回以上だった

その後も活発な火山活動が続き、4月に入ってからは、二酸化硫黄の放出量が1日当たり900~2600トンに上ったほか、火山性地震の観測も1カ月で50回以上となっていた。

口永良部島噴火 火砕流も、全島避難勧告 警戒レベル初の「5」

口永良部島の火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)を切替

口永良部島で、3日12時24分に発生した噴火は、火山灰を分析した結果、マグマが直接関与していた可能性があることがわかりました。今後、マグマが関与した噴火が発生した場合、火砕流が発生する可能性があります。噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石に加え、火砕流にも警戒して
ください。

噴火警報・予報: 口永良部島<平成26年8月7日10時00分>〔気象庁〕

噴火警戒レベルの運用開始後、初めての事態

レベル5「避難が必要」は初

爆発的噴火をした鹿児島県の口永良部島は、噴火警戒レベルが3(入山規制)から5(避難)に引き上げられた。レベル5は「重大な被害を及ぼす噴火が発生しており、危険な居住地域からの避難などが必要」であることを示しており、平成19年の噴火警戒レベルの運用開始後、初めての事態だ。

口永良部島噴火 レベル5「避難が必要」運用開始後初の事態

「大きな人的被害がなかったのは偶然にしか過ぎない」

消防庁によると、昨年8月3日正午ごろに新岳付近で噴火が発生し、灰色の噴煙が上空800メートルまで上がった。その際の負傷者はゼロ。気象庁は当時、噴火警戒レベルを最も低い1から3(入山規制)に引き上げた。この噴火の4日後には、新岳火口付近から南西の海岸までの範囲で火砕流の警戒が必要と呼びかけた。町によると、島内全域に避難準備情報が発令されたことを受けて島民の約半数が一時、島外へ自主避難したことも、今回の噴火での安全な避難につながったという。ただ昨年8月の噴火以降、専門家の間では対応強化の必要性を感じていた。口永良部島の元ガイドで樹木医の荒田洋一さん(59)は先月同島を訪問、「硫化水素の臭いが漂い、いつ大きな噴火があってもおかしくないと感じた。もっと早い時期に全島避難すべきで、今回、大きな人的被害がなかったのは偶然にしか過ぎない」と警鐘を鳴らした。

口永良部島噴火 犠牲者ゼロ 昭和以降で10回近く噴火経験 生きた教訓

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