ついにビールも…特殊な膜で「ペットボトル化」叶えた日本の技術

蒸留酒以外では難しかった「ペットボトル化」の流れがワイン・清酒のほか、ついにビールにまで達し話題になっている。この背景には、低い気密性など、通常のペットボトルの課題を克服する、日本の素材メーカーによる技術開発がある。

《産業界における素材メーカーの存在感》
日本のお家芸とされてきた電機業界が不振にあえいでいるせいもあり、世界に先駆けて先端素材を生み出してきた日本の実力が再評価されている。米倉弘昌前経団連会長(住友化学)、榊原定征現会長(東レ)、小林喜光経済同友会代表幹事(三菱ケミカルホールディングス)と、立て続けに経済団体のトップを輩出していることも業界の地位向上を最も端的に示している。

今夏「ペットボトルビール」が登場した

キリンが、特殊コーティング技術で作られるペットボトルを宅配用ビールの1リットル容器に採用

キリンビールが7月に始めた家庭への生ビール配送サービスで、配送時に用いる1リットル容器に三菱樹脂による特殊製法のぺットボトルを採用。遮光ケースに入れて届き、専用のサーバーで注ぐ。大手ビールメーカーが、このペットボトルをビール容器に採用するのは初めて。

三菱樹脂、酸素やCO2遮断性高いペットボトルがキリンのビール容器に採用〔2015年8月19日 日刊工業新聞〕

「工場でしか味わうことができなかった出来たての生ビールをご家庭に」(キリンビール)

キリンビールは、「ビールの劣化の大きな原因となる酸素のバリア性を高めた」ペットボトルによって「ビール工場でしか味わうことができなかった出来たての生ビールをご家庭に直送する」としている。

新たに2つの会員制サービスを地域限定で先行展開!〔2015年5月28日 KIRIN〕

採用された「ハイバリアPET」は従来品に比べ「酸素やCO2、光の遮断性が向上」(三菱樹脂)

今回採用されたのは、特殊技術で作られる「ハイバリアPET」。製造元の三菱樹脂は「ビール瓶が茶色なように、ビールにとって光は大敵。一方、ペットボトルはリサイクルの観点もあって透明にできている。『ハイバリアPETボトル』は通常のペットボトルと比べ、酸素やCO2、光の遮断性も向上している」と説明する。

ビールもペットボトルの時代が到来? キリンが宅配用で採用〔2015年8月24日 J-CAST〕

実はアサヒも2004年に特殊なビール用ペットボトルを開発。しかし「リサイクルが困難」などの声を受け発売を見合わせた

2004年7月、アサヒビールが高い遮断性を持つビール用ペットボトルを開発したと発表、同年内にも新商品を発売するとしていたが、国際環境NGO「グリーンピース」などが、その特殊性ゆえにリサイクルが困難などと指摘。同社は、リサイクルシステムに多大な影響を及ぼす可能性があると判断し発売を見合わせた。

アサヒビール(株) 容器包装研究所〔2004年7月8日 アサヒビール〕

一方、ハイバリアPETはリサイクル適性基準をクリアしている

日本包装学会誌によると、DLCコーティングを施したペットボトル(ハイバリアPETボトル)は、ペットボトルリサイクル推進協議会の自主ガイドラインで、リサイクル適性Aを取得しているという。

キリンのビール容器に「ペットボトル」が採用される!炭酸ガスを通常の約7倍遮断〔2015年8月19日 IRORIO〕

海外には多くの「ペットボトルビール」

オランダには世界初のプルトップ式ペットボトルビール「ババリア」がある

酒の量販サイトによると「Bavaria(ババリア)」は、「ハイネケン社にも匹敵する規模を誇るオランダを代表するビールメーカー」で、世界初のプルトップ式ペットボトルビールを発売した会社でもあるという。「3層構造」のペットボトルで「麦芽100%の美味しさと冷たさを30%長持ちさせる」と謳う。

〔特価〕ババリアビール(オランダ)ペットボトル〔カクヤス〕

ドイツの場合は、主にディスカウントスーパーで売られている

ベルリン在住で現地では個人ガイドなども務める松永明子さんは、ドイツでは「ペットボトルビールはデパートや中流スーパー、駅のキオスク等には並んでおらず、いわゆるディスカウントスーパーでしか見かけない」という。

実はドイツには「ペットボトル入りのビール」があるんです!〔2015年8月29日 地球の歩き方〕

その「味」については賛否分かれる

日本でも流通するババリアを飲んだ日本人「普通に美味しい」

国内外のビールを飲み比べ、その評価を掲載しているブロガーは、オランダのババリアについて「やや、ホップの香りは強いが、普通のピルスナー。ま、同じくオランダの『ハイネケン』あたりに似ている。普通に美味しい」といった感想を載せている。

オランダ『Bavaria(ババリア)/Bier brouwerij Bavaria N.V.』〔2014年5月14日 BLOG ハイラックス速報【酒】〕

「(ババリアは)私の一番好きなドイツビールとよく似た味」と高評価する日本人も

2012年5月時点で145種類のビールを試飲し、その評価などをブログで紹介する人は、ババリアについて「全くと言って良いほどクセがない。すごく飲みやすい」、「私の一番好きな(ドイツの)ビール『レーベンブロイ』とよく似た味」と高評価。

オランダ Bavaria ババリア(ビール) [ビール・酒]〔2010年5月14日 自作erのひとり言〕

ドイツ在住の日本人「『安くて、美味しくて、軽くて買い置きしやすい』から、ペットボトルタイプも愛飲している」

松永明子さん(前出)は、「私個人的には、『安くて、美味しくて、軽くて買い置きしやすい』という3つの理由から、しっかりペットボトルタイプも愛飲しています」と味については満足している様子。

実はドイツには「ペットボトル入りのビール」があるんです!〔2015年8月29日 地球の歩き方〕

一方で日本人の中には「やっぱり瓶ほど保存状態良くないから、味がちょっと劣る」という意見も

ではドイツ人はというと「様々」。「『絶対に樽生か、ガラス瓶入りじゃなきゃ!』というこだわり派も」(松永さん)

松永明子さん(前出)は、ペットボトルビールの評価について「ドイツ人の間でも様々」とし、「『ビールは絶対に樽生か、ガラス瓶入りじゃなきゃ!』というこだわり派もいれば、『ペットボトルは軽いし、味も悪くないから別にいいじゃない?』という賛成派も」と紹介している。

実はドイツには「ペットボトル入りのビール」があるんです!〔2015年8月29日 地球の歩き方〕

そもそも「ペットボトル化」のメリットとは

720mlのワインの場合、瓶に比べ約250グラム軽くなる。割れる心配もない

2009年ごろから導入が進むペットボトルは当然、瓶より軽い。720ミリリットルのワインの場合、ペットボトルにすると瓶に比べ約250グラム軽くなる。女性や高齢者でも持ち運びやすくリサイクルがしやすい利点もある。瓶のように割れる心配もない。

メルシャンの国産ワイン、ペットボトルを7割に 小容量も増〔2014年8月30日 日本経済新聞〕

軽い分だけトラック輸送時の燃費が抑えられコストカットもできる

軽い分だけトラック輸送時の燃費が改善されるので費用が抑えられるほか、二酸化炭素(CO2)排出量も減らせるため、環境負荷低減という時代の要請にもかなっている。

ペットボトルでガラス超え 高級感と高い空気遮断でワインボトルに採用 三菱樹脂

密閉性が高く、コルク臭もないスクリューキャップはワイン栓として優れる

ワインボトルの栓に、ひねって回すだけで開くスクリューキャップを採用することもできる。サッポロビールワイン戦略部の久野氏はその特徴を「密封性の高さ」とし「コルク臭がワインに移るということがないのも大きな利点で、ワインの栓として非常にすぐれている」と話す。

スクリューキャップのワイン、味や風味に影響はないの?〔2013年5月15日 マイナビニュース〕

ペットボトルに入ったメルシャンのワイン。軽くて持ち運びやすいと人気

ペットボトルに入ったメルシャンのワイン。軽くて持ち運びやすいと人気

ワイン・清酒で進む「ペットボトル化」

2009年のボジョレーヌーボー発売時に複数社が導入し話題に

2009年のボジョレーヌーボー発売の際にメルシャンを含む複数社が「ペットボトル入りワイン」を導入し、「安価で手軽」と話題を呼んだ。

違和感はあるけど安くてお手軽!「ペットボトル入りワイン」の気になる評判〔2010年8月18日 DIAMOND online〕

2010年8月からメルシャンは本格導入

メルシャンは2010年8月に、「おいしい酸化防止剤無添加ワイン」「ビストロ」シリーズなど全7種で、キリンビールと共同開発した「ワイン用ペットボトル」の採用を本格的に開始した。

違和感はあるけど安くてお手軽!「ペットボトル入りワイン」の気になる評判〔2010年8月18日 DIAMOND online〕

サッポロやアサヒなどもペットボトルワインを販売

メルシャンのほかに、サッポロビールやキッコーマン食品、アサヒビールなどでも、ペットボトルワインを提供している。

激安ペットボトルワインをプロが飲み比べてみた〔2015年4月12日 ESSE web〕

メルシャンは国産ワインの6割強で採用。7割が現在の目標

メルシャンは2015年9月現在、国産ワインの6割強でペットボトルを採用しており、今後は7割まで高めたい考えでいる。

ペットボトルでガラス超え 高級感と高い空気遮断でワインボトルに採用 三菱樹脂

白鶴酒造などは清酒でも採用

清酒最大手の白鶴酒造なども専用のペットボトルを採用し始めている。

ペットボトルでガラス超え 高級感と高い空気遮断でワインボトルに採用 三菱樹脂

ペットボトル化はワインだけでなく、清酒にも広がっている

ペットボトル化はワインだけでなく、清酒にも広がっている

背景に日本の「特殊コーティング技術」

通常のペットボトルでは気密性は低く品質が大幅に劣化してしまう

内容物が酒に変わるだけでペットボトル化は格段に難しくなる。ほんのわずかでも、酸素が内部に侵入したり、水分が気化して漏れ出たりするだけで、品質が大幅に劣化してしまうため。蒸留酒ではないワインや清酒は特に風味を損ないやすく、酸素などを遮断するバリア性が必要。

ペットボトルでガラス超え 高級感と高い空気遮断でワインボトルに採用 三菱樹脂

三菱樹脂は一般的なボトルに比べて約10倍の酸素バリア性を持つ「ハイバリアPET」を開発

ワインや清酒のペットボトル化を実現するために、三菱ケミカルホールディングス傘下の三菱樹脂は約10年前、酒用ボトルを業界に先駆けて開発。清涼飲料向けなどの一般的なボトルに比べ酸素で約10倍、炭酸ガスで約7倍、水蒸気で約5倍のバリア性を実現し、現在、「ハイバリアPET」の名称で製造・販売している。

ペットボトルでガラス超え 高級感と高い空気遮断でワインボトルに採用 三菱樹脂

ボトル内側にナノ単位のごく薄い炭素膜を形成する特殊なコーティング技術でワインの品質を保持

三菱樹脂はボトルの内側に約20ナノ(1ナノは10億分の1)メートルのごく薄い特殊な炭素膜(バリア層)を形成することで、ワインなどの品質を保持できるようにした。この技術は「DLC(ダイアモンド・ライク・カーボン)コーティング技術」と呼ばれる。特殊な膜は、ダイヤモンドと似て規則的な結晶の配列を持つ分、バリア性が高い。

ペットボトルでガラス超え 高級感と高い空気遮断でワインボトルに採用 三菱樹脂

膜を作る難しさは「ボトルの中で雷を起こすようなもの」(三菱樹脂スタッフ)

鮫島拓也・包装容器事業部容器グループマネジャーは「ボトルの中で雷を起こすようなもの。それをコントロールしながら製造するのが大変」と難しさを語る。

ペットボトルでガラス超え 高級感と高い空気遮断でワインボトルに採用 三菱樹脂

ガラス瓶に「似せる」努力も

開発後すぐには酒に採用されず…三菱樹脂はワイン用ボトルの開発で飲料メーカーとタッグ

「ハイバリアPET」は開発後すぐに「焼き肉のたれ」の容器に採用されたが、酒にはなかなか採用されなかった。「いかにガラス瓶そっくりの見た目にできるかが重要だとそのとき初めて悟った」と三菱樹脂の鮫島氏は語る。そこで同社は2009年、キリンビール、メルシャンと、新たなワイン用ボトルの開発に乗り出した。

ペットボトルでガラス超え 高級感と高い空気遮断でワインボトルに採用 三菱樹脂

凹凸のない「形」と「強」度の両立で苦戦したが約2年で完成

ワインは赤と白とで酸素吸収量が違い、求められるボトルのタイプも異なる。ワインボトルらしい、凹凸のない簡素な形を目標にすると、強度を高めるリブ(くぼみ)がなく形が崩れやすくなるため困難を極めたという。その結果、2年近くかかって、ハイバリアPET製のワイン用ボトルができ上がった。

ペットボトルでガラス超え 高級感と高い空気遮断でワインボトルに採用 三菱樹脂

ハイバリアPET(左)と瓶。色以外はほぼ同じ見た目

ハイバリアPET(左)と瓶。色以外はほぼ同じ見た目

遮断性ボトルの開発競争は激化

「食用油、調味料など、多岐に渡る分野への事業展開を」(三菱樹脂)

三菱樹脂は「ハイバリアPETボトルを容器事業の中核製品と位置づけ、生産体制の整備を進めるとともに、今後もお客様のご要望に基づく製品開発を進め、アルコール飲料や食用油、調味料など、多岐に渡る分野への事業展開を積極的に進める」としている。

ハイバリアPETボトルがビール容器に採用〔2015年8月18日 三菱樹脂〕

三菱樹脂の成功を受け、東洋製罐や吉野工業といった競合も同様のボトルを開発

三菱樹脂の成功を受け、東洋製罐や吉野工業といった競合も同様のボトルを開発し、競争は激しさを増している。

ペットボトルでガラス超え 高級感と高い空気遮断でワインボトルに採用 三菱樹脂

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