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ニセ医者の人気講演、つかみは「佐村河内ネタ」…工学博士騙る“余罪”も

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ニセ医者の人気講演、つかみは「佐村河内ネタ」…工学博士騙る“余罪”も

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「医学博士」を騙って健康や医療について講演する男性。講演の“つかみ”として話題を呼んだ佐村河内守氏のネタを披露し、会場を沸かせてもいたのだが…=3月14日、兵庫県三木市(※一部画像加工しています)  医師免許を持たず医学博士や医師と偽り、約10年間にわたって講演活動やラジオ出演をしていた男は、問題発覚後もさらなる余罪が明らかになった。

 医師免許を持たない神戸市西区の男性(55)が医学博士や医師と偽り、約10年間にわたって講演活動やラジオ出演をしていた問題は、男性が依頼を受けて講演していた兵庫県三木市に講演料109万円を返還し、「もう講演活動はしない」と反省の弁を述べて一応の終息をみた。だが、男性のことを信じて講演会に足を運び、出演するラジオに耳を傾けていた市民や関係者の間では、怒りと落胆が今も収まらないままだ。一方、この問題の発覚後、男性の過去を知る人物からは、20年以上前に“工学博士”として活動していたという驚きの証言も寄せられた。(井上浩平、中村雅和)

■専門用語駆使、話に説得力

 「今、話題になっている佐村河内(さむらごうち)守さん。ご本人は感音性難聴だそうですが、お年寄りの皆さんも他人事ではないですよ」

 一連の問題が明らかになる直前の3月中旬、三木市内の公民館で開かれた男性の講演会の一幕だ。くしくも詐称疑惑で騒動を起こした人物をネタに話し始めると、会場の高齢者ら約50人から大きな笑いが起きた。

 客席の反応に気をよくしたのか、スーツ姿の男性は眼鏡の奥の目を細めて大きくうなずくと、関西弁に時折、標準語が混じる独特の語り口で、健康や医療をテーマに講演を進めた。

 このときは自分が医師であることは明言しなかったが、「病院で血圧の薬を出すやん。今、流行しているのがノルバスクという薬」「久しぶりに風邪薬を買ったが、成分をどうしても見てしまう。硫酸アミドなんて30年前なら劇薬やで」などと、専門用語を交えて医療知識が豊富であることをちらつかせ、話に説得力を持たせていた。

■講演繰り返し地元の“名士”に

 男性は平成16年に神戸市西区内の2階建てアパートの1室に「総合医療研究所」と称する事務所兼自宅を置き、“所長”に就任。隣接する三木市を中心に、兵庫県内で自治体や企業が主催するイベントに医学博士として出席し、講演活動を始めた。

 講演の主催者に提出した履歴書に記したのは、「灘中学・高校」(神戸市)を経て「東京大学医学部卒業」「米・ニューヨーク州立大学博士課程修了」などの輝かしい学歴。そして、「虎の門病院」(東京)や「国立循環器病センター」(大阪)など、医師として第一線で勤務していたというものだった。

 講演会は三木市や地元企業などの主催で、多いときは1カ月に数回、1回につき1万数千円から6万円の謝礼を受け取り、公共施設や学校などで開催された。

 男性の活躍の場は、講演会ばかりではなかった。18年からは三木市のコミュニティーFM局で、自ら「ドクター」を名乗り、司会を務める週1回のラジオ番組を持った。企業経営者らも名を連ねる奉仕団体のロータリークラブにも入会し、すっかり地元の名士になりきっていた。

■経歴は「大げさに書いた」

 順風満帆に見えた男性の活動は、今年に入り暗転する。実は、約2年前から、番組や講演を聴いた医療関係者らの間で「話の内容が薄く、医学に通じた人とは思えない」などの声が出ていたのだ。

 講演の主催者も経歴に疑いを持ち始め、24年から男性を講師に登録していた兵庫県の外郭団体・公益財団法人「兵庫県健康財団」や、19年から49件の講演を依頼していた三木市は、今年3月をもって男性への講演依頼を中止。FM局も番組を打ち切った。

 4月中旬、産経新聞の取材に対し、男性は「大げさに書いてしまった」と、経歴がすべて嘘であったことをあっさりと認めた。

 その上で、男性は「東京都内の私大医学部に入学したが、2年生の時に中退した。その後、米国カンザス州の大学院で基礎医学を学んだ。論文も執筆したし、申請さえすれば博士号も授与されたはずだが、医学博士の肩書は持っていない」などと釈明した。

 さらに「在籍歴や勤務歴は知人のものを流用した」と説明し、「講演会で知人の医師の代役を務めたのがきっかけ。その後も講演の依頼があり、知人の経歴を使い続けた」と弁明した。

■詐称発覚に市民らは怒りと落胆

 4月22日の産経新聞夕刊で男性の経歴詐称を報じると、市民をはじめ、卒業生を語られた学校や講演を依頼した行政の関係者から、怒りや落胆の声が上がった。

 灘高校の担当者は「OBからの問い合わせもあり、男性の存在は把握していた」と打ち明ける。「そのような人物にかかわるのは、学校の品位を下げてしまうと考えて放っていたが、それにしても腹が立つ話だ」と吐き捨てた。

 講演やラジオを聴いたことのあるという三木市の60代の主婦は「先生のファンは多かった。立派な方が近所で話してくれていると信じていたのに…」と肩を落とし、かつて講演を依頼した同市職員は「スーツでビシッと決めた身なりだったし、経歴詐称は夢にも思わなかった。市民に申し訳ない」と反省しきりだった。

 取材に対し「もう講演活動はしない」と語った男性。同市から返還を求められた講演料109万円を返還し、刑事告訴も免れた。

 「経歴詐称は報道があるまで知らなかった。ただ、本人はひどい人間ではなく、医学論文を発表したいという目標も持っているので、今後も応援したい」と話す妻とともに、男性は再出発を誓っている様子だ。しかし、まだ語られていない事実もあるようで…。

■“工学博士”としても活動?

 「カンザス州の大学院と聞いてピンと来ました。詐欺のようなことを、まだやっていたんですね」

 平成に入って間もないころの一時期、男性と仕事をしていたという大阪府茨木市のフリーライター(57)は、あきれ顔だ。

 この人物によると、男性は当時、「大阪大学工学部教授」を名乗っていた。「東大医学部卒業」や「カンザス州立大客員教授」などの経歴を語り、「自分は医者だが、工学系にも詳しいのでコンピューターのことも分かる」と豪語していたという。

 男性が、あるコンピューター関係の企業のセミナーで講師を務めていたことから、フリーライターが当時働いていた業界誌で、コラムを連載してもらった。

 その後、同誌主催の講演を依頼したが、華々しすぎる経歴に社内で疑惑の声が上がった。調査したところ虚偽であることが判明し、縁を切ったという。

 一連の問題に関する取材は約2カ月間にわたったが、結局、男性については大阪府出身であることと、誕生日くらいしか真実らしいことは確認できなかった。

 「人生は単なる寿命の長さでなく、質が問われる時代。結果だよ。元気でシャンシャン、好きなことをした方がいいじゃん」

 取材を進めていた3月、三木市で行われた講演会での男性の発言が、どこか、むなしく思いだされた。

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