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中国人実習生9人殺傷事件の現場を歩く カキ養殖は中国人が支える現実

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地方・西

 息を白くして、青年たちが引き揚げたばかりのカキを専用の機械で洗浄していた。朝のまだ暗い時間。養殖カキの収穫が最盛期を迎えた広島県江田島市の浜辺で、青年たちは黙々と働く。時折、聞こえる言葉は中国語。そばの作業場でカキをむく日本人は70歳すぎの女性たちだった。

 のどかな瀬戸内海の風景。しかし、江田島の北部に位置する切串の町は3月14日、ものものしいサイレンや上空を飛び交うヘリコプターの喧噪に包まれた。

 「川口水産」で、中国籍の水産加工技能実習生、陳双喜被告=(31)、殺人罪などで起訴=が社長の川口信行さん=当時(55)=と、作業員の橋下政子さん=同(68)=を鍬やスコップで殴るなどして殺害、7人を負傷させる事件が起きた。

 あれから9カ月、改めてカキ養殖現場の実態を取材した。

 事件後に県水産課が行ったアンケートによると、県内の314業者のうち、外国人実習生を受け入れているのは83・1%(261業者)。昨年の「カキ年度」(10月~翌年5月)、広島で生産されたカキは1万9300トンで、実に国内生産量の約60%を占める。日本一の「広島のカキ」。その現場は実習生に支えられて成り立っている実態を浮き彫りにしている。実習生の97・3%は中国人だった。

 江田島市によれば、市の高齢化率は39・5%。市内66業者の約70%が海外から技能実習生計約200人を受け入れている。

 7年前、実習生として来日し、結婚した30代の女性は「私は結婚資金をためにきた」と白い歯を見せて話してくれた。周囲には中国に家を建てるために来た人もいたという。

 凄惨な事件を起こした陳被告は、日本語が不得手だった。川口社長から「ばか」と叱責されていたことが報道され、言葉や文化のギャップがクローズアップされた。また、同社で務めていた中国人実習生は陳被告だけで、話し相手となる中国人実習生も限られ、孤独感を募らせていたことも伝えられた。

 江田島市では事件をかえりみて、「外国人市民支援会議」を発足させた。「外国人も江田島市民という意識が必要」と、8月にはカキ養殖業者21人を招き、外国人とのコミュニケーションの研修を行った。そこでは、「日本語で普段聞く『ばか』が、中国では最大級の侮蔑になる。相手の文化を理解してコミュニケーションをはかろう」などと注意を促した。

 9月にはフットサル大会を催し、中国人やインドネシア人実習生に加え、江田島署や江田島市消防本部もチーム参加し、交流した。

 事件以降、市が行った催しは5件。現在は呉市を手本に、外国人向けの日本語サロンの設置を検討している。

 事件を辛い教訓とし、支援は確かに始まった。ところが、別の悩みもあるという。

 県漁連によれば、最近は日中関係の悪化から、両親が実習生を中国に呼び戻す動きがあり、さらに中国国内の賃金上昇で、日本で働く魅力が目減りしているという。県水産課によると、日本との賃金格差がより大きいインドネシアの実習生は2・3%、ベトナムは0・4%が就労している。

 しかし、江田島市のカキ養殖業の男性はこう話す。「いくらインドネシア人に日本の賃金が魅力的でも、温暖な国の出身では広島の冬の寒さは耐えられない。やはり中国人だろう」。

 さらに、カキをむく「打ち子」について、男性は「厳しい現場で、これだけ働く人はいないよ」と話す。そのほとんどは年配の女性。「将来、高齢化はさらに進む。その時、中国人が帰ったら、人手不足をどうするのか」。言葉に不安の色がにじんでいた。(松前陽子)

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