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【軍事情勢】惨めの極み
2012/01/29 00:23更新
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フィリピン海軍は昨年末、軍用艦就役式を行ったが「惨めの極み」であった。
この軍用艦が、米国から買った米沿岸警備隊のハミルトン級長距離巡視船(3250トン)を改良した中古だったことに「惨めの極み」を感じた訳ではない。後述するが、安全保障環境を読み誤り、米軍を比国内から追い出した揚げ句、中国の脅威が現実となるや、今度は米国に助けを求めた浅慮に対してである。
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記事本文の続き ■フィリピンの浅慮
「惨めの極み」はもう一つ。比海軍の“主力艦”はハミルトン級を除くと、第二次世界大戦中に就役した米海軍払い下げのフリゲイト1隻、あとは数隻の哨戒艦だけという惨状に対してだ。1999年から比国防省と米国防総省との間で始まった共同防衛評価(JDA)計画の報告書(2003年)では、こう指摘された。
《最重要任務ですら、部分的に遂行できる程度の能力しか備わっていない》
さらに深刻なのは、報告を受け、比国防改革プログラムを04年から始めて尚(なお)、海空軍戦力が中国軍に緊張感をもたらすレベルにも達していない点だ。
単に脆弱(ぜいじゃく)な財政基盤の問題だけではない。兵器は導入にあたり、優先順位を付け計画的に導入しなければ中・長期的に必ず戦力の弱体化を招く。その基本を踏まえていなかった点は致命的でさえある。10年連続で国防予算を減らされている自衛隊もまた、兵器の増強・更新のサイクルが完全に変調をきたしている。まさに「フィリピン事」ではない。
ところで、中国は帰属が明確・不明確な南シナ海の島嶼(とうしょ)部を次々に軍事占領し、次第に「中国海」へと変貌させている。この状況を作り出した責任の一端はフィリピンにもある。
米軍は冷戦期、比国内にアジア最大の海軍基地スービッグと、基地として国外最大のクラーク空軍基地を保有。ベトナム・カムラン湾に基地を置いたソ連軍に睨(にら)みを利かせていた。しかし、ソ連の脅威が低下するや、米軍撤退こそ主権回復の象徴だと捉えるフィリピンの“世論”が一気に盛り上がった。もっとも“世論”といっても、多くは左翼や華僑だった。基地近くの火山の大噴火も影響したが、“世論”に影響された比議会は撤退容認に舵を切った。斯(か)くして、米軍は1991~92年にかけて撤退する。
■「力の空白」突いた中国
この「力の空白」を中国が見逃すはずもなかった。95年には、フィリピン領有のミスチーフ礁に突如侵攻し、建物を建てた。当初は「漁船の避難施設」と言い張ったがその後、礁を土砂で埋め立て飛行場・波止場や兵舎を建設し対水・対空火器を配備した。
伏線があった。中国は92年に「領海法」を公布。南シナ海のほぼ全域の領有を主張し、軍に「領海侵犯者を実力で退去させる権限」を与え、外国艦船が付近の海域を通過する際に中国の許可が必要とする旨を、一方的に宣言したのだった。
現実を思い知らされたフィリピンは99年に米比訪問部隊協定を締結。2000年には米軍との合同軍事演習を4年ぶりに再開し、03年には米国と相互補給支援協定を結んだ。「米軍基地閉鎖」を叫んだ主権国家としての“矜恃(きょうじ)”は、蛮勇に過ぎなかったのだ。
沖縄県の米軍基地の移転先について「基本的には県外、できれば国外」と思い付き発言をした鳩山由紀夫元首相(64)を持ち出すまでもなく、国民迎合型の政治的ジェスチャーがいかに国家を危うくするかを如実に物語る。反日・反米のプロ活動家の扇動に乗せられてはならぬのだ。
■戦う意志が不可欠
鳩山発言の重いツケを、その後の歴代民主党政権が払わせられ続けているのは周知の通りだが、フィリピンも同じ。
「わが国の主権が及ぶ西フィリピン海に、直ちに(軍用艦を)配備する」
「パトロールを強化し、議論の余地の無いフィリピンの主権を行動で守らねばならない」
前述の就役式に臨んだベニグノ・アキノ3世大統領(51)の挨拶は「南シナ海」を「西フィリピン海」と明言するなど、悲壮感に満ちていたが、その覚悟とは裏腹に実力は依然、伴っていない事は既に述べた。
従って、中国がミスチーフ礁を軍事占領した時点で、直ちに抗議はしたものの、軍事行動を取れなかった。フィリピンと相互防衛条約を締結する米国もまた、武力行使を選択していない。「その理由は多々あったが、フィリピン自体が軍事行動を取ろうとしなかった事実が大きかった」(ラリー・ウォーツェル米中経済安保調査委員会委員)といわれる。
ただ、フィリピンはその後、やや学習した。南沙諸島海域で昨年3月、比資源探査船に中国哨戒艇が近付き「中国領だ」と退去を命じた。その際、少なくとも2度、あわや衝突の危険行為を繰り返した。これに対し、比軍は軽攻撃機と連絡機各1機を急派。中国哨戒艇は自発的に現場を離れた。
その3週間後に開かれた米比外相級会談では、相互防衛条約を南シナ海有事にも適用し、比軍装備増強・更新を米国側が支援する方向で合意した。
米国は、国家主権を守るべく「戦う意志」を具体的に示さぬ国を、当然ながら決して助けはしない。同時に、軍備を怠り「力の空白」を生めば、それは国家主権をも危うくする。
「フィリピンの失政」は、日米安保条約を結ぶわが国にとっても、学習しなければならない不気味な教訓に満ちている。
(九州総局長 野口裕之/SANKEI EXPRESS)
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