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【軍事情勢】文化を護る喧嘩の仕方

2009/03/15 01:30更新

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 「戦渦」により「戦禍」を被るのは人間だけではない。「戦火」を免れても、芸術品には略奪が待っている。戦争に翻弄(ほんろう)され、数奇な運命をたどった銅像が最近、歴史の表舞台に顔を出した。

 中国・清(しん)朝(1616~1912年)時代の離宮・円明園(えんめいえん)から海外に持ち出されたネズミとウサギの十二支動物像の頭部である。第2次アヘン戦争中の1860年、北京に侵攻し、円明園を占領した英国とフランスの連合軍によって略奪されたのであった。フランスの服飾デザイナー、イヴ・サン=ローラン氏(1936~2008年)らの遺産として、ロンドンの競売会社により2月、競売にかけられた。落札価格は約39億円と、予想価格の12億円を大幅に上回っている。

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記事本文の続き 中国側は「中国に所有権があるのは疑いの余地がない」として、パリ大審裁判所(地裁)に競売差し止めと即時返還を求めて提訴していたが、結局「差し止めの理由がない」として棄却された。競売後も大層な剣幕(けんまく)だ。もっとも、落札者が流出文化財を取り戻す活動を行う民間組織の顧問を名乗る中国人で「中国人としての責任を果たしただけ」と、不払いを公言したことから、銅像の行方は不透明の度を増している。

 ■凄まじい英仏の略奪

 十二支像は、噴水時計の装飾品で、2時間ごとにその時刻に当たる干支(えと)の頭から水が流れ、正午になると十二支から一斉に噴出する仕掛け。回収に執念を燃やす中国軍系企業などが丑(うし)・申(さる)・寅(とら)・亥(ゐ)・午(うま)の銅像を約10億3400万円で購入している。

 英仏両国には非難されるだけの理由がある。そもそも、英国議会で「かくも不正な戦争をいまだかつて知らない」と、開戦反対派の議員が答弁を行ったことでも明らかなように、アヘン貿易を事実上合法化するために仕掛けられただけでも許し難い戦争であるのに、その略奪の嵐は凄(すさ)まじかった。少なくとも、ロンドンの大英博物館には、清はもとより、それ以前の秦(しん)(紀元前 221~紀元前 206年)から漢(かん)、東晋(とうしん)、隋(ずい)、唐(とう)、明(みん)など歴代王朝の宝物・書画など数万点が展示されている。仏軍は帰国後、皇帝ナポレオン3世(1808~73年)に1万点に及ぶ宝物を献上。その内、殷(いん)(紀元前16世紀ごろ~紀元前11世紀)や周(しゅう)(紀元前1100ごろ~紀元前 256年)の時代の青銅器を始め1000点以上の陶磁器や象牙の彫刻品、屏風(びようぶ)などを陳列するために、皇帝は古城内に中国館まで建てている。現在でもパリの図書館には、絵画など80点が並ぶ。軍人個人が持ち帰った品々を算入すると、奪った至宝の点数はあまりに膨大で永遠の謎となるだろう。

 ■中国もスネにきず

 欧米の博物館は後世に伝えねばならぬ歴史的文物をしっかりと保存しており、それは敬意に値する。反面、大英博物館はギリシャなどとも同様のトラブルを引き起こしており、その陳列品の多くは陰惨な侵略の証でもある。今の価値観で帝国主義時代を考察することには危険が伴うが、それを差し引いても、英仏が行った蛮行は、中国ならずとも非難したくなる。

 一方で、中国政府は英仏を非難できる立場にはない。

 「文化財に関する権利を侵害する」

 「人民の文化的利益と民族感情を傷つけた」

 一連の政府声明はチベットや新疆ウイグルなど、中国が少数民族の自治区で行っている文化・民族・宗教弾圧に対し発せられる、世界の人権活動家の声そのものではないか。ただし、文化や民族を「侵害する」「傷つけた」という表現は、文化や民族が存在するという前提に立つ。中国は少数民族とその文化それ自体を葬り去ろうとしており、「侵害」し「傷つける」対象ですらなくなり始めている。

 ■「返還の交換条件」

 サン=ローラン氏と公私にわたるパートナーで、銅像などの共同所有者であったエール・ベルジェ氏(78)は「中国の人権認知とチベットに自由を与えることが返還の交換条件」と、仏週刊誌などで明言している。その週刊誌と競売会社に共通する大株主をたぐっていくと、グッチやイブ・サン=ローランなど多くのファッション・ブランドを傘下に収める仏流通大手PPRの総帥、大富豪のフランソワ・ノー氏(72)に行き当たる。ベルジェ氏が天安門事件後、中国の反体制家をパリで匿(かくま)った人権擁護の闘士なら、ノー氏もチベット独立勢力の筋金入りの支援者である。

 なるほど。「喧嘩(けんか)」の仕方が堂に入っている。

(政治部専門委員 野口裕之)

=毎週日曜日掲載

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