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【舞の海のスポーツちゃんこ】「改革」と「情」のはざま 舵取りに注目

2012/02/14 15:02更新

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【舞の海のスポーツちゃんこ】相撲協会理事選を終え、会見する北の湖新理事長=1月30日、東京都墨田区の両国国技館(北野浩之撮影) 

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【舞の海のスポーツちゃんこ】舞の海秀平(まいのうみ・しゅうへい)氏。1968年、青森県生まれ。日本大学相撲部で活躍。社会科の教員資格を取得し、山形県の高校教師に内定していたが、周囲の反対を押し切って夢だった大相撲入りを決意。基準の身長に足りず新弟子検査を不合格になるも、頭にシリコンを入れて2度目の検査で入門を果たす。現役時代は数々の技で土俵を沸かせ、「技のデパート」の異名を取った。最高位は小結で、幕内通算241勝287敗12休、技能賞5回受賞。大相撲解説者、スポーツキャスター(田中充撮影)

記事本文

 ■痛み知っていた親方

 任期満了(2年)に伴い、改選した日本相撲協会の新理事会が1月30日に開かれ、北の湖親方=元横綱=の第12代理事長就任が満場一致で決まりました。北の湖親方は2008年9月に弟子の大麻問題で理事長を引責辞任しており、史上初めての理事長返り咲きとなりました。

 北の湖理事長は幕内優勝24回の大横綱で、私が角界入りしたときの新弟子検査に立ち会ってくださった方です。読者の皆さんもご存じだと思いますが、私は身長が基準に4センチ満たず、最初の検査で不合格となり、頭に4センチ分の水を入れたシリコンを埋めて再検査で合格し、晴れて力士となったのです。

 実はこの再検査のとき、難所の身長検査担当が北の湖親方でした。

 3月の大阪場所の検査で不合格となった私は、5月の夏場所での合格を目指し、入念に準備を行いました。美容外科で検査の1カ月前に頭皮を剥ぎ、シリコン容器を埋め込む手術をしました。そこに徐々に注射器で水を入れ、“身長”を伸ばしていきました。

 ところが、検査前日で172センチと基準に1センチ満たない事態となりました。あわてて病院に行き、医師が水を足そうとするのだが、頭皮は限界まで引っ張られていて中々入りません。無理矢理に押し込んだ水が入るのと同時に、頭皮がブチブチッと音を立て、激痛に見舞われたのを今でも覚えています。

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記事本文の続き 検査当日は痛み止め薬も効かない中で苦しみに耐えつつ、「シリコンがばれたら不合格になるんじゃないか」という不安にも襲われていました。そんな私に近づき、「痛いか。もう少しの辛抱だからな。頑張れ」と声をかけてくれたのが北の湖親方でした。

 その話しぶりからも、私の事情を知っていたのでしょう。実際の検査でも、そーっと頭髪に触れるくらいのところでカーソル部分を止め、「174センチ」と予想よりも1センチ高い数値で合格させてくれました。

 ■故郷の親兄弟に気遣い

 相手は、昭和の大横綱ですから、気軽にあいさつできる存在ではありません。気遣いに対する感謝の気持ちも伝えられないまま、入門から2年ほどが経過し、私も幕内力士に昇進していたころです。

 たまたま巡業中にホテルのレストランでラーメンを食べていたところ、北の湖親方が横に座ってこられました。親方は焼酎を飲みながら、私に「お前はまじめに稽古しているから、何も心配するな」というようなことを言ってくれました。当時の私にとっては、この言葉は本当にうれしかったですし、自信にもなりました。

 解説者になった後も、北の湖親方の言葉に、はっとさせられたことがあります。

 理事長になられていた親方が国技館のインタビュールームで待機されていたとき、たまたま居合わせた私は雑談の機会を得ました。このとき、親方は「俺はあんまり力士に対して厳しいことを解説で言えないんだよなあ」と打ち明けられました。

 理由を問うと、「力士には故郷に親や兄弟がいるだろう。そんな人たちが聞いていると思うと、どうしても厳しく言えないんだよ」と話していました。

 私は、視聴者や読者にわかりやすく、正直に説明することが解説者の役目だと思っているので、時に力士に対して「ここはどうしても厳しく指摘しなければならない」という場面があります。そんな時はいつも北の湖親方の言葉を思い出しながら、解説をするようになりました。

 ■時代の変化に素早く対応

 幼少の頃、テレビで現役時代の北の湖親方を取り上げたドキュメンタリー番組を見たことがあります。

 一人で稽古場に残り、立ち会いを想定しながら汗を流す姿が印象的でした。インタビュールームでお話しした際も、相撲の話になると真剣な表情になります。「上手はどこをとる」とか、相手と組んだときのまわしの切り方、相手力士の息づかいなどを振り返るとき、細かな技術を持った力士だったことが伝わり、感銘を受けました。

 そんな北の湖理事長はおそらく、土俵での自分には厳しく繊細な一方で、弟子や周囲には情の厚い方なのだと思いました。世の中で情や義理といったものが薄れる中で、そこに価値を置いた生き方には心から尊敬する部分があります。

 一方で、相撲界のトップとしては、その情が脇の甘さにつながることも事実なのではないでしょうか。引責辞任した前回の理事長時代の弟子の大麻問題は、そのことを象徴しているようにも見えます。

 情に厚いことと、難所を乗り切るリーダー像は必ずしも一致しないと思います。高額でのやりとりが問題視される年寄名跡(親方株)の協会による一括管理を目指す名跡改革や、2013年11月末が期限の「公益財団法人」化などで、協会トップにはときに冷徹な決断が求められます。

 しかし、大横綱を前に生意気に聞こえますが、時代の変化に素早く対応しきれず、仲間内の力士や親方衆への“情”が、明らかに上回っている気がします。未曽有の状況下の大相撲界。後世に残すため、迫られる「改革」と「情」のはざまで北の湖理事長はどう行動されるのか。舵取りに注目しています。

 (大相撲解説者、スポーツキャスター 舞の海秀平/SANKEI EXPRESS

       ◇

 ■まいのうみ・しゅうへい 1968年、青森県生まれ。日本大学相撲部で活躍。社会科の教員資格を取得し、山形県の高校教師に内定していたが、周囲の反対を押し切って夢だった大相撲入りを決意。基準の身長に足りず新弟子検査を不合格になるも、頭にシリコンを入れて2度目の検査で入門を果たす。現役時代は数々の技で土俵を沸かせ、「技のデパート」の異名を取った。最高位は小結で、幕内通算241勝287敗12休、技能賞5回受賞。大相撲解説者、スポーツキャスター。

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