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12/09 09:47更新
【BEYOND TOMORROW】
■バブル後日本の教訓生かせ
野村総合研究所のリチャード・クー主席研究員を招いた特別セミナー「BEYOND TOMORROW」(産経新聞社・ブルームバーグ共催、徳間書店後援)が1日に東京都内で開かれた。クー氏は、欧州債務問題や米景気の減速を解決するため「バブル崩壊後の日本の教訓を生かすべきだ」と指摘。積極的な財政出動などの必要性を訴えた。講演内容は以下の通り。
▼伸びぬマネーサプライ
2008年のリーマン・ショックから回復してきた鉱工業生産は東日本大震災で再び落ち込んだ。急速に回復に向かっているが、足元ではもたついている。輸出先である海外が原因だ。
米国の鉱工業生産はいまだに05年の水準だ。欧州ではドイツだけが過去のピークに戻ったが、フランスやスペインの鉱工業生産は1997年の水準だ。
マネーサプライ(通貨供給量)も回復していない。各国が量的緩和を行い、お金はじゃぶじゃぶだと思うだろう。確かに中央銀行が供給する流動性は大幅に伸びた。流動性供給は中央銀行が国債などを買って銀行に資金供給することだが、民間がすぐに使える金とは違う。銀行が貸し、借りた人が使ったお金が銀行に戻ってまた貸す。銀行の預金が増え、民間が使えるのがマネーサプライだ。それがほとんど増えていない。
本来、中央銀行が流動性を1割増やせばマネーサプライも1割増えるが、リーマン・ショック後はそうではない。米欧はマネーサプライの伸びはほぼ皆無といえるほど低迷している。景気が良くなるはずはない。
日本は97年に金融危機に直面し、日銀がマネタリーベース(資金供給残高)を増やした。米国の学者らは「量的緩和で日本経済は良くなる」と主張し、日銀はその圧力に押された。だがマネーサプライの増加は極めて緩やかだった。日本が経験してきたことが今、世界中で起きている。
▼世界でもまれな成功例
一国の経済をみると、一方で貯金するか借金を返済すれば、反対側にはお金を借りる人がいなければならない。それが通常だが、ゼロ金利でもお金を借りる人はおらず、むしろ返している。借金返済のお金と新たに貯金されたお金は銀行に入るが、借りる人がいないため銀行から出なくなる。
日本企業の借金返済が多かった時期は返済資金が年間30兆円を超えた。家計部門の貯金が20兆円だとすると、計50兆円分の所得が減り、毎年国内総生産(GDP)が1割減ってもおかしくなかった。それでもGDPは一度もバブル期のピークを下回らなかった。政府が借金して使ったからだ。
大変な政府債務を抱えたとはいえ、これは世界で最も成功した経済政策の一つだ。実施しなかったらGDPは大幅に落ち込んだ。極めて安い買い物ではなかったかと思う。どんな大きなバブルが発生して崩壊しても、当初から正しい財政政策で対応すれば、GDPは維持できる。日本が世界で初めて示した教訓だ。
▼危機はユーロ圏のみ
債務危機はユーロ圏以外では起きていない。ユーロ圏では家計や企業が貯金している。にもかかわらずポルトガルやアイルランド、スペインの金利が下がらない。そこがポイントだ。
スペインの投資家はドイツ国債も買えるし、オランダ国債も買える。スペインの財政赤字が大きくて心配になると、スペインの貯金を大量にドイツに持っていく。同じことがポルトガルやギリシャでも起きる。国内で貯蓄を生み出しているのに海外に資金が逃避し、政府が借金しようとしても国債の利回りが上がる。
このため政府は資金を調達できず財政再建を進めようとするが、民間が借金を返済するとき政府が財政再建を行えば、経済はデフレスパイラルに落ち込む。数年前の資金の流れは逆で、独仏の銀行は猛烈な勢いでスペインやポルトガルの国債を買った。バブルだったからだが、それが崩壊すると資金は一斉に逃げる。政府が借金しなくてはいけなくなったときに資金がない破滅的な資本移動が起きる。これがユーロ圏の問題だ。
解決策がある。ユーロ圏参加国が自国民にしか国債を売ってはいけないルールを導入すればいい。貯金が国内に残って金利が下がれば債務危機にはならない。
国民を説得できない国はそれ以上、財政赤字を増やせず、規律が生まれる。大きな財政赤字を出さないといけない場合は政府が国民に説明し、国民が納得すれば増やす。そこには柔軟性もある。各国の財政問題は内政問題になり、ギリシャが破綻しても周辺国は影響を受けない。
▼財政出動が必要
各国中央銀行が協力して金融機関に資金供給することになった。当然の行動だが対症療法にすぎない。治さないといけないのは、ユーロ圏で起きる不安定な資本移動と、バランスシート不況に陥っている国々をどう正しいレールに乗せるかだ。それには財政再建ではなく財政出動が必要だ。心配なのは、ユーロ圏で財政出動をやるべきだという声が聞こえてこない点だ。
日本では1997年と2001年にマイナス成長があった。97年に橋本政権、01年に小泉政権が財政改革に取り組んだことが原因だ。財政出動で支えられていた経済が支えを失い、税収が落ちて財政赤字が増えた。その失敗の経験からみても悪い方向に向かっている。財政再建に凝り固まれば、事態はもっと悪くなる。欧州で一つでも失敗すると、世界中がとんでもない状況に陥る。
リチャード・クー…1976年カリフォルニア大バークレー校卒。81年ジョンズホプキンス大大学院修了。ニューヨーク連銀を経て84年野村総合研究所。98年から現職。著書に「日本経済を襲う二つの波-サブプライム危機とグローバリゼーションの行方」(徳間書店)など。神戸市出身。57歳。