【政治部デスクの斜め書き】前原氏は「悪人」になるべきだ
2009/10/04 18:14更新
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長年続いたダム建設。「無駄だから」と中止を宣言したら、メディアが「苦労してきた住民がかわいそう」と報道。そして、説明をしたいからと、大臣は現地に出かけていったが、怒った住民は大臣に会ってもくれない…。
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記事本文の続き 主人公は前原誠司国土交通相だ。
だが前原氏の出演していない深夜の討論番組で、年配の司会者が言った一言が引っかかった。
「中止だと最初から言うからだめだ。中止にするかどうか検討するって言えばよかったんだ」。年長者ぶった言い方だった。
怒っている人との付き合い方はいろいろある。
社会人の常識で言えば、本当に必要なことは、まずは怒らせないことであり、怒らせてしまった場合には説明し、それでもだめなら、ひたすら、謝ってしまえばいい。謝っても駄目なら、仕方がないから、しおらしくして、ほとぼりが冷めるのを待つということになる。
政治家である前原氏の場合、どんな対応があったのだろうか。
テレビに映った前原氏は、しょんぼりとして、ちょっと小さく見えて、ごめんなさいモードで会場入りして、ちょっと困った顔で話していた。
責任者である大臣は、廃止する事業の現地住民に説明しないといけないのだろうか。あの司会者がいうように「中止するかどうか検討します」といって、その場をしのいで、本当は決めているのに、相手をとりあえず静かにさせて、それで時間を稼いで、事なきを得ればいいのだろうか。
そして、鳩山政権は、これから廃止する事務事業の現場すべてに、大臣を出向かせて、こちらの作業所に、あちらの漁村に、こっちの農村に、こちらの公的施設に大臣が謝って回って、低姿勢で、そして予算を削っていくつもりなのだろうか。
私は、そんなことはしてはいけないと思う。
予算を切られれば、継続性が切られ、支えを切られる。期待がそがれ、心を切られ、そして生活が痛む。そうした痛みを抱えた人との戦いに入っているのだということを、もっと鮮明に意識すべきだ。
前原氏には言いたい。表面を取り繕って、あの司会者がいうような、「いい子」になるのではなく、予算を切って、切って、切りまくる役目なのだから、徹底的に「悪者」になればいい。
冒頭、テレビ司会者のことを紹介したのは、司会者のような対応が、対住民問題では、最も危険な対応だと私は思っているからだ。
司会者のように対応すると「時間」という、人間にとって、最も重要なものを、政治が消費し始める。
どうしても耳から離れない言葉がある。
長年続いた住民闘争。隣町で公共事業があって、反対運動したら政府が撤回した…。ところが次の候補地が自分の土地になり、攻めたり守ったりして反対運動していたら、30年も40年も時間が過ぎてしまった、という話だ。
そこで、その時間を過ごした一人が私に語った。
「どうせなら、30年前に一気に終わらせて、空港を完成させてくれればよかったのに」
言わずと知れた成田闘争のことだ。
先輩記者たちから成田取材の武勇伝を聞いたことがある。飛び交う火炎瓶をかいくぐりながらの写真撮影。でもその記者たちは、すぐに転勤になった。私もその一人だ。当然だ。そして、当事者だけが残される。
大臣だって同じ。自民党政権のように毎年大臣を代えるような軟弱な鳩山政権ではないと思うが、それでも、長くても4年も過ぎれば、大臣は変わっていく。
だからこそ、政治は国民の「時間」を、もっと重視してほしい。
前原氏に、あのセリフだけは言ってほしくなった。
「地元や関係都県の理解を得るまでは、基本計画廃止に関する法律上の手続きは始めない」
「理解を得るまでは」。時間の幅を感じさせるこのセリフはだめだ。
それに、どれだけの時間がかかるのか。どれだけの時間をかけるつもりなのだろうか。大臣がその間、マニフェスト(政権公約)の作成過程や決断の背景などを説明したり、話し合いの時間と称して、仕事をしないで待っているのは勝手だが、住民にとっては、その間も、人生の貴重な時間が刻一刻と過ぎていく。
だからこそ、前原氏には、しっかり「悪者」になってほしい。
「ひどい大臣だ」「強権だ」「一方的だ」「ごり押しだ」。そう言われても、自身が決めた決断を、それこそ、すぐさま実行に移して、地域の人々を、「最終決定しない」という混乱から早く解放してあげなくてはいけない。そうできないなら、中止自体を撤回すべきだ。
昔の集落や昔の人間関係、昔の生計は戻ってこない。それは自民党が政権を持っていたからではなく、その事業を開始してから、50年もの時間が過ぎてしまったからだ。時間が過ぎたということは、その間、決断がなかったという意味だ。とっとと、工事を進めるという決断も、やめるという決断もなかった。少しずつ進めて、既成事実だけを積み上げて、時間の経過の重みで、住民と地域社会をずたずたにする手法をとってきた。
前原氏は、できるだけ短い時間でこの問題を終えてほしい。その後に、補償という重いテーマが待ち構えているが、補償は、住民の心や記憶や生活を補償することはないことも「悪人らしく」理解してほしい。50年という時間が残した傷と、前原氏が最終的に下した判断の傷は、補償では癒えない。その上に、簡単な絆創膏を張るに過ぎない。
血が止まらないかもしれない。手で傷口を押さえて、救急車を呼んで、包帯を巻いて、手術をして…。だが、前原氏は決断して、その後の手当てをやりぬくしかない。
謝って、しばらく静かにして、何度か現地に足を運んで、「話し合いをしましょう」「理解を得たい」と語りかけ、メディアがおとなしくなるのを待って…。
そういう手法は、これまで誰がやってきた道だろうか。
前例に従って、一度始めると中止ができず、何も変えられず、前にも進めず、国民から「政治への希望」を奪った自民党政権時代の硬直した政治の轍を踏んではいけない。「悪人」になり、次々と決断し、実行するしかない。「時間をかけて説明して、説得して」。そんな美辞麗句にのってはいけない。それでは政権交代の意味がない。(金子聡)
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