【軍事情勢】皇室と自衛隊の温かなきずなを
2009/03/29 01:11更新
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記事本文
天皇陛下(75)は日々、国民に思いをはせ、種々の祭祀(さいし)・公務をつかさどっておられる。誠に畏(おそ)れ多きことと思う。しかし、お役目繁多に、陛下のご健康を憂う声も多く、一部が緩和され始めている。今上(きんじょう)陛下に限らず、代々の天皇は計り知れない責任を負ってこられた。
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記事本文の続き 明治三十七~八年戦役=日露戦争(1904~05年)=に勝利した際、明治天皇(大帝/1852~1912年)が述べられた大日本帝國(こく)陸軍の乃木(のぎ)希典(まれすけ)大将(1849~1912年)へのお言葉に、その苦悩が凝縮されている。戦勝に沸く日本国民は、乃木を凱旋(がいせん)将軍として畏敬(いけい)したが、数多(あまた)の将兵を失った将軍に喜びはなかった。ロシア軍が3年は持ちこたえられると信じた旅順要塞(ようさい)を、帝國陸軍は半年で攻略したものの、戦死者1万5400、負傷者4万4000もの尊い代償を払っていたのだ。
将軍は生涯を通じ、その責任にこだわった。凱旋直後、大帝に報告した際も、旅順で散華(さんげ)した将兵を思って声を詰まらせ、全役職の解任を願い出た。大帝は「負ける戦いなれど、乃木なればこそ」と慰撫。その上で「乃木は辞められるからいいな」と言われた。さらに間を置いて、お言葉を発せられた。
「天皇は辞められない」
■泣き崩れた乃木大将
そう仰せられるや無言となられた。大御心(おおみこころ)の深さに一同声発することもできず、落涙するも只(ただ)々肩震わせるのみにて、静寂は一層の静寂を誘った。静寂を破ったのは乃木大将だったやもしれぬ。将軍は大帝のお言葉の重みに立っていることもかなわず、その場に声を出して泣き崩れた、という。支えられて立ち上がった将軍が一礼して下がる際、大帝は「乃木よ、早まるな」「乃木には、まだやることがある」と声を掛けられた。屠腹(とふく)の決意を看破され、将軍はしばしその場を動けなかった。
学習院々長就任の大命が下ったのは間もなくのことであった。先帝陛下=昭和天皇(1901~89年)=もこのころ、親王殿下として教育掛(かかり)だった乃木大将に接しておられ爾来(じらい)、生涯で最も尊敬する人物として将軍の名を挙げ続けている。大兵を野に晒(さら)した乃木大将が「愚将」か否かは論が分かれるが、2代の天皇と国民を魅了した将軍が在った。それは紛れもない。現今(げんこん)と政体は異なるも、天皇と将軍の相思にも違和感はない。
■違和感だらけの形式
むしろ違和感を今に見る。海上保安制度創設60周年を祝う記念式典が昨年5月、天皇・皇后両陛下のご臨席を仰ぎ挙行された。天皇陛下は、戦後の機雷掃海などで殉職した保安官と遺族に哀悼の意を表されている。
一方、1800人もの殉職者を数える自衛隊の公式行事に、両陛下のご光臨を賜(たまわ)ったことはない。一部の将官や海外派遣自衛官が、宮中においてご拝謁(はいえつ)・接見を許されているに過ぎない。それも、大臣や最高裁判所判事、会計検査院検査官らのように、陛下により任免される認証官としてお目に掛かるわけではない。自衛隊が行う国賓を迎える栄誉礼でも、各国では国賓とともに招待側元首が整列した儀仗(ぎじょう)兵の前を歩くが、わが国では招かれた国賓だけが指揮官に先導されて巡閲をする。
自衛隊の装備は利用されるものの「異例の形」を採る。先帝陛下ご搭乗の自衛隊ヘリコプターは自衛隊飛行場ではなく、隣接の警察施設に着陸。皇太子殿下(49)と雅子妃殿下(45)も阪神・淡路大震災(1995年)慰問に際し、自衛隊ヘリで、このときは自衛隊駐屯地に降りられたが「自衛官は目につかないように」と「行政」から要請された。もっとも、自衛隊側は礼を失することをはばかり整列してお出迎えしている。
■皇居警備も許さぬ法
実は今上陛下が皇太子殿下のみぎり、自衛隊見学が計画された。立案者は首相を退いた吉田茂・衆議院議員(1878~1967年)で、信頼する小泉信三・元慶應義塾長(1888~1966年)に依頼している。小泉元塾長は皇太子殿下(今上陛下)の教育掛であったためだが、当時は「60年安保」の渦中で結局、実現はしていない。
政治による自衛隊の統制(文民統制)が揺るぎなくなった今こそ、自衛官と皇室との温かなきずなが望まれる。ところが、現行法では、自衛隊に非常時における皇居警備すら許さない。
遠洋練習航海中の海上自衛隊・練習艦隊が昨年6月、寄港地の1つブラジルに入港した。折しも、日本移民 100周年。自衛隊は記念パレードを先導したのみならず、ご訪問中であらせられた皇太子殿下の前を行進するという栄誉に浴した。指揮官は号令を掛けた。
「頭(かしら)右!」
行進した自衛官の多くが感動に震え、国家・国民を守る使命感を新たにしたと語っている。
(政治部専門委員 野口裕之)
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