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京都に戻った「はてな」 秩序と静けさ優先

2009/04/16 23:41更新

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ITベンチャー「はてな」の近藤淳也社長=3月11日、京都市中京区(撮影・柿平博文) 

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【すくむ社会 第1部】『考える』の空洞化 (1)(2)(3)(4)(5) / (6)

 東京では情報があふれかえり、じっくりモノが考えられないと、古巣の京都に戻ってきたITベンチャー企業がある。技術革新が日々進むネット業界で成功するには、東京の流行を追うのが近道のはず。そんな常識と距離を置く経営者にどんな思いがあったのか。

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記事本文の続き 検索・ブログ事業を手がける「はてな」の近藤淳也社長(33)。社員は60人ほどだが、京都に本社を置く任天堂と手を組んだ新しいサービスも手がける。

 誰かが知りたいことを不特定多数が答えてくれる「人力検索はてな」というネット事業を打ち出し、学生として過ごした京都で創業したのは、まだ25歳の平成13年7月。その3年後に東京に進出した。

 成功の近道には、海外でヒットしたサービスを真っ先に日本に持ち込むという手がある。その情報をつかむには東京が有利だが、流行を追うことばかりに気をとられ、独創性が失われていく感覚を次第に強めていった。アイデアを絞る思考のなかに割って入る電話、会議、来客…。人の数、情報量があまりに多く、開発するサービスがどうしても「小振り」になってしまうのだ。

 喧噪(けんそう)から離れ、思考しやすい環境で集中してアイデアを生み出すため、技術者数人が高原のペンションに泊まり込みプログラムを仕上げる「開発合宿」を取り入れたが、それでは満足できなかった。

 「新しいモノを発想するのは心のなかで飛躍して、危険な領域に行く感覚。冒険のようなプロセスだから恐れがつきまとう。東京はメリットはあったが、駅を歩いていても人があまりに多くて障害物のようにしか見えず、不機嫌さがあったし、心理的にポジティブになれなかった」

 ネットへの世代的な感覚の差は、ウィンドウズ95が登場して国内にネットが普及し始めた平成7年が、大学時代と重なってネットに夢中になったか、その時すでに多忙な社会人になっていたかが分かれ目になるとの見方がある。昭和50年生まれの近藤社長は当時大学生。パソコンにそのころからはまり、ホームページを作ったりしていた。

 ソフトバンク孫正義社長(51)らをIT第1世代、楽天三木谷浩史社長(44)らを第2世代とすれば、近藤社長はミクシィ笠原健治社長(33)らと並び、「Web2・0」ブームを支えた第3世代といわれる。この第3世代は、昭和51(1976)年前後に生まれたことから「ナナロク世代」とも呼ばれる。ネットを大学時代から熟知した近藤社長に、ネット検索が思考の低下を招くという懸念について聞くと、答えは明快だった。

 「検索と、図書館で資料を集めることに違いがあるとは思えない。だから検索はどんどん使えばいい。検索がだめというのは、人との連絡に電話を使うな、手紙を書けということと同じ。覚える必要がなければ、考えることに時間を振り向けることができる」

 近藤社長がそう言うように、覚える作業は機械に委ね、その分創造性を高めようとする発想は実は今から40年も前にあった。「情報産業」という言葉の生みの親で、国立民族学博物館初代館長、梅棹(うめさお)忠夫氏(88)は、ベストセラーの「知的生産の技術」(昭和44年初版)で、日々の気づきや発見をカードに書き記し、アイデアの創造に結びつける同氏提唱の「京大式カード」をこう説明している。

 「カードはコンピューターに似ている。コンピューターも、人間のかわりに機械が記憶するのである。どちらもいわば『忘却の装置』である」

 京大式カードの考え方は、IT技術に取り込んで発想支援ソフトの開発につなげる研究者もおり、現在も生き続けている。梅棹氏は同著で、この方法を追求した理由について、「『時間』がほしいからでなく、生活の『秩序と静けさ』がほしいからである」と述べ、効率よりも精神的な安らぎの大切さを指摘している。

 東京には「不機嫌さ」があったという近藤社長は昨年4月、本社を京都・二条城にほど近い御池通沿いに移した。それから1年たった今、近藤社長は移転の判断は正しかったと思っている。「京都には技術を持った学生を探しやすいのはもちろん、情報が適度にゆっくりと流れ、落ち着いて考えられる。空気が止まっている感じがしますよね。1人でモノを考えるのを、ほっておいてくれる感覚がします」

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