【裁判員裁判 検察側論告】(2)「犯行はしつこく残忍」
2009/08/05 14:02更新
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■情状関係
それでは次に、検察官が本件の量刑を決めるに当たって特に重要だと考える以下の5つの情状につき述べていくこととします。
(1)サバイバルナイフで多数回にわたり、一方的に繰り返し刺すなど、犯行態様が執拗(しつよう)かつ残忍
被告は、女性であり、しかも高齢期にあって、暴力的攻撃に対し肉体的に弱い被害者に対し、サバイバルナイフで一方的に胸、背中などを多数回にわたって繰り返し刺して死亡させました。初の裁判員裁判 全詳報
その傷も身体の奥深くまで8センチから10センチも刺さっているほどのものが複数あるなど、手加減のかけらもないものでした。
被告は被害者の胸を刺したときのことにつき、ナイフを持った指に柔らかいものが当たったという感触をこの法廷で生々しく語りました。
このことからも、被告が手加減せず、ナイフの根元まで強く刺したことは明らかです。
そして、その傷の中には心臓と肺動脈のつなぎ目に達しているもののほか、背中から体内に奥深く刺さっている致命傷もあります。
逃げようとして背中を向け、無防備になっているにもかかわらず、被告はその背後から被害者を刺しているのです。
それだけでなく、被害者には、身体をかばおうとしてできた防御創までありました。
加えて、被告はCさんの家の前までサバイバルナイフを持って逃げる被害者を追いかけており、その攻撃意思のしつこさも明らかで、悪質です。
そして、被告が強い殺意をもって被害者を突き刺したことは、先ほど述べたとおりです。
このような態様がしつこく残忍なものであることは明らかです。
(2)被害者を殺害しており、生じた結果重大
被告の犯行により、被害者は突然、命を奪われました。
被告のことを警戒し、接触を避け、トラブルになるまいとしていたのに、ある日、突然、口論がきっかけでサバイバルナイフで刺し殺されてしまった被害者の無念は明らかです。
また、息子さんお二人や、被害者を頼りにしていた被害者のお母さん、さらには、被害者の弟、妹さんらのご遺族にとっても、突然、一方的に被害者の命を奪われたことによって生じた影響や結果は重大です。
さらに、被告が突然、被害者を殺害した上、その場から逃げたことは、Aさん、Bさん、Cさんの証言からも明らかなとおり、平和に生活していた近隣住民の方々に対しても、不安感や恐怖感を与えるなど、大きな影響を与えました。
その意味からしても、被告が被害者を殺害したことによって生じた結果はやはり重大です。
(3)サバイバルナイフを持ち出すことだけでも正当化する余地がないのに、メンツをつぶされたなどと考えて犯行を決意して殺害しており、動機が短絡的で酌量の余地乏しい
被告はサバイバルナイフを見せたのに、被害者が言うことを聞かなかったため、メンツをつぶされたなどと考えて犯行に及びました。
近隣住民間でトラブルがあったからと言って、サバイバルナイフを持ち出してきて相手を脅したりしてよいはずがありません。
近所の人との間で口論をしたとき、相手がいきなりサバイバルナイフを持ち出してきたら、皆さん、どう思うでしょうか。
安心して生活することもできません。
まして、被告のこの法廷での供述によれば、被告は被害者とはこの数年間、ほとんど会ったことすらなく、被害者に文句の1つも言うこともなかったのに、前日に競馬で負け、やけ酒を飲んでムシャクシャしていたところに、被害者と目が合うとすぐに被害者にペットボトルが倒れていることに文句をつけました。
しかし、ペットボトルが倒れていたのは数日前のことだというのです。
それなのに、被害者と口論となると、被告はサバイバルナイフを持ち出してきただけでなく、それを使い、被害者を何回も突き刺し、殺害したのです。
この被告の行動は、まさに八つ当たり以外の何物でもありません。
そもそも被害者には、被告から脅されなければいけない理由もありません。
まして、殺されても仕方がない事情など全くありません。
ペットボトルを倒したのが被害者だなどという証拠はありませんし、バイクのとめ方や、植木の置き方が悪いからと言って、ナイフを突き付けたり、刺したりすることが許されるはずはありません。
それなのに、自分のメンツのため、被害者を殺害した被告の動機に同情する余地は乏しいとしか言いようがありません。
なお、被告や弁護人は、事件を引き起こした原因は被害者側にあったとし、被害者をサバイバルナイフで脅したところ、ひるまず「やるならやってみろ」と言い返され、さらに、被害者が被告のあごを押したり、右肩をつかんだりしてきたため、刺すしかなかったなどと主張しています。
また、被告は被害者から生活保護をもらっていることをバカにされてカチンと来たとも話しています。
しかし、被害者が「やるならやってみろ」と迫ってきたという話や、被害者から押されたりしたとか、生活保護をもらっていることを被害者からバカにされたなどという話は、被告がそう言っているだけです。
被告は捜査段階では、被告自身、よく話を聞いてくれ、そのとおりに調書に取ってくれたと認めている検事に対して、被害者が被告のあごを押したり、右肩をつかんできたとも、生活保護をもらっていることで被害者からバカにされたなどとの話を全くしていません。
そして、被告自身、捜査段階ではそういう話をしていなかったことも認めています。
被告は、捜査段階で殺意を否認していました。
もし、本当に被害者が生活保護をもらっていることで被告をバカにしたとか、被害者がつかみかかってきて、被告のあごを押したり、右肩をつかんだりしてきたなどということがあったのであれば、自分に有利となるこれらの話をしないなどということはあり得ません。
それに、被告が刑務所から出てきた後、被告とほとんど会っていなかったという被害者が、被告が生活保護をもらっているかどうかを知っているということも信じられない話です。
逆に、被害者のご長男は、被害者はトラブルに巻き込まれないよう被告を避けていたし、被害者がそんなことを言うはずがなく、被告が責任を被害者に押しつけようとうそをついているのだと証言しています。
確かに被害者は夫を早くになくし、女手一つで2人の男の子を育ててきたわけですから、苦労も多かったはずです。
その点から見ても、気が強い側面があったかもしれません。
そうだとしても、ナイフを持った前科のある男が目の前にやってきているのに、高齢の女性が「やるならやってみろ」と言い返すとか、まして、自分から先に男につかみかかっていくなどとは到底信じられません。
Aさんも「ぶっ殺す」という男の声の前に聞いた女の人の声は「…でしょ」という言葉だったという記憶があるだけで、「やるならやってみろ」などという言葉は聞いていないと明確に証言しています。
ところで、先ほどお話ししたとおり、被告はこの法廷で、被害者があごを押してくるとともに、被告の右肩をつかんできたので、やむを得ず、被害者を刺したという弁解をしています。
しかし、そのように、被害者が両手を被告の方に出してきていたときに、被告が被害者をナイフで刺したのだとすれば、その時、被害者は、被告の右肩を左手でつかんできているのですから、被害者の左手に防御創があることの説明がつきません。
このことから考えても、被告の弁解はやはり信用できません。
結局、被告がこの法廷で突然言い出した、被害者が先につかみかかってきたとか、被害者から生活保護をもらっていることをバカにされたとか、捜査段階の「やるならやってみろ」という話は、到底信じることができません。
さらに、仮に被告の捜査段階の主張のように、「やるならやってみろ」と被害者が言ったということがあったとしても、近隣住民間での口論の場に、ナイフを持ちだして人を脅すようなことは絶対に許されず、そのことを棚に上げ、被害者側に事件を引き起こした原因があるかのように言うこと自体、おかしな話です。
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