雪、雪、雪…豪雪地ルポ前に遭難?そこで見たものは
2012/02/12 16:38更新
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この2月、東北地方は豪雪に見舞われている。雪が多い山形県の中でも内陸部で比較的、少ないという山形市で31年ぶり、90センチを超える積雪を記録、街は機能マヒした。除雪による事故などで、山形だけで雪害による死傷者が10日、240人にのぼった。関西出身者として、初の雪国生活だ。そこで出会ったのは-。
■雪の洗礼に
豪雪が予報されていた2月2日、豪雪地のルポに行け-。前日の夜にそんな命を受けた。行き先は日本でも有数の豪雪地、大蔵村・肘折温泉。午前6時に自宅の窓を開けると、ベランダの手すりに雪が積もっており空は真っ黒、視界がない。とりあえず、事件事故のファクスをチェックするために支局に寄りいざ出発、というところで車が動かなくなってしまった。
ギアをバックにいれたり、エンジンをふかしても動かない。この作業が事態をさらに悪化させていた。
「こんな時、アクセルを吹かしたらだめだ。車体の腹がついているから、ジャッキで持ち上げるかJAFを呼ぶしかないかなあ」と近所の男性。
支局の敷地から車体はすでに8割方でているため、ゴミ収集車の進路の前をふさいでしまっている。収集車はしばらく待っていたが、動かない車を見てあきらめて戻っていった。
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記事本文の続き 近所の男性が前輪に段ボールを敷いてくれたり、砂をまいてくれたり、スコップで雪かきを手伝ってくれたがにっちもさっちもいかない。その間も雪は間断なく降り続く。男性が近くの接骨院のスタッフ3人を呼びにいってくれた。
「そーれ」
格闘すること1時間近く。5人の男性の手を貸りてやっと、車を出すことができた。
■2度目の悪夢
2度目の試練が待っていた。ルポに向かうために車を200メートル進めた所で再び雪にはまってしまったのだ。スコップで車輪のまわりを一人、掘ったが動かない。雪かきをしていたおばあさんが気の毒そうに「手伝えたらいいのだけれど」とつぶやく。
すでに時間は午前10時をまわっていた。頭の先から足元まで雪まみれ。
「豪雪地ルポに行く前に遭難してしまう」
肘折にたどりつけるのか、不安に駆られてしまった。取材に行くと伝えていた肘折の方から「今どのへん?」という問い合わせの電話に「山形市内」と伝えると絶句される。
後ろについた車の運転手の方々の手を貸りてやっと抜けだし、車を走らせた。500メートルの間に雪で動けなくなった車を2台も目にする。道路は除雪が追いつかず、真っ白だ。「もう2度とはまらないで」と祈るような気持ちで国道13号を走らせる。雪のために長い渋滞が続いた。
■大蔵村は別世界
ところが、東根、村山を抜けるころにはがらりと変わる。除雪が不十分な山形と違って、道路はきれいに圧雪されている。空には青空ものぞいた。大蔵村に入ると、3メートルはある雪の壁はあるが、車もスムーズに走る。山形市とは大違いだ。
「豪雪地は除雪が完璧だから、大丈夫といったでしょう」
肘折温泉旅館組合の柿崎泉組合長(56)はこういって、青息吐息で肘折にたどりついた私を見て笑った。
アメダスの積雪量観測は359センチだが、実際はそれ以上だという。
最上川に流れる銅川にはふんわりと雪のわたぼうしができていた。
川のそばの駐車場で雪を川に落としている男性と出合った。長南(ちょうなん)正夫さん(76)。自分の車の隣のスペースの雪かきしていた。
「頼まれているわけではないが、お互いさまだから」と話す。
■初の雪かき体験
傾斜がある屋根に素人の私が上がるのは危ないため、柿崎組合長の旅館(3階建て)の屋上にお邪魔した。同組合長が経営するゑびす屋の屋上は平らのため間近で写真を撮ることもできる。
まずは組合長の雪かきを見せてもらうことにした。
新雪の高さは1メートル20~30センチになっているだろうか。しかし、その下に固くなった雪が50センチは積もっていた。
組合長はかつて木を切り出すときに使っていた刃の長さが60センチはあるのこぎりでシュ、シュッと線を入れていく。その下にスノーダンプを差し込むと、スポッと雪がきれいに型ぬきをしたように抜けた。
「墓石のようでしょう」
雪の塊が乗ったスノーダンプをすべらせ、下に落とした。こつは、スノーダンプより大きい塊を乗せないことという。乗せるとスノーダンプがはばげてしまう(壊れてしまう)という。
組合長の講釈を聞いた後、私も雪かきに挑戦させてもらった。しかし、そう甘くはない。スノーダンプを雪に差し込むが、うまく切れない。少し崩れた雪の塊を乗せて屋根の端までそろりそろりと運んだ。見た目はパウダースノーだが、ずっしりと重い。
「雪と一緒に落ちないよう気をつけて」という声にこわごわとスノーダンプを傾けると、バサッという音とともに雪が落ちた。うまく飛ばすことができずに壁に雪が当たる。これは、壁を傷つけてしまうため、気をつけなければならないという。
■プロの技
“プロ”の作業に立ち会うことにした。
大蔵村生まれの早坂充(みつる)さん(54)は夏は農業をしているが、冬はチームで雪おろしを請け負っている。
雪下ろしを頼まれた温泉旅館の従業員宿舎の屋根には雪庇(せっぴ)が2メートル以上もせり出し、今にも落ちそうになっていた。風がふくと粉雪が白く舞う。
早坂さんは隣の旅館のはしごを伝ってまずは隣の屋根へ。そこからロープをたぐってスノーダンプやスコップのこぎりを引き上げた。宿舎の屋根はそれよりも高く、屋根の上には雪がうずたかく積もっており、乗り移る前にスペースを作らなければならない。
落ちると大けがするのは間違いない。時間にして10分程度だろうか。早坂さんは道具を隣から屋根に移した後、宿舎側の壁のはしごに足を伸ばしてあっという間に乗り移った。その姿は雪庇で見えなくなった。
ここでもやはり登場するのはノコギリ。柄を特別に長くした2メートルはあるノコギリを縦に横にと動かす。「まるでマグロの解体だなあ:」という声が背後に聞こえた。
ノコギリ、鉄製のスノーダンプを使うのは、豪雪地の肘折ならではだ。早坂さんは命綱もつけていなかった。
「屋根の上を動き回るのにロープがあると、まるで猿回しの猿だ。とても、作業にならない」と早坂さん。「今年は、雪が間段なく降るため大みそかも仕事。正月も元旦の1日しか休めなかった」という。
豪雪地の雪おろしを担うのは、早坂さんのような身軽な雪を知り尽くした除雪のプロだ。大蔵村ではこうした除雪のプロがいなければ、大変なことになってしまう。「肘折は早坂さんたちのおかげで守られている」と組合長。しかし、最近は後継者不足が問題になってきているという。
10日、肘折の積雪は4メートルを超えた。電話線に雪が届いている状態という。前々日に雪崩でダンプカーが埋まったため、肘折までの道路は片道車線通行。この週末に予定していた雪灯籠のイベントが中止になった。
組合長に電話した。
「知らない人からみたら怖いと思うかもしれないだろうが、私たちはここで生活してきているから…。雪が深いからこそ、山の土が肥え、山菜も含めた山の恵みがある」と話す。
今日も雪が降り続いている。除雪は大変だが、お互いさまだからという助け合いの精神が息づいていることを身をもって知ることができた。そして、豪雪地を生き抜く知恵も。山形がますます好きになった。 (山形支局長 杉浦美香)
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