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【続・灰色の記憶覚書】あの人に訊ねてみたい光景 長塚圭史

2012/02/13 15:52更新

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【続・灰色の記憶覚書(メモ)】あの人に訊ねてみたい光景=山形県川西町(長塚圭史さん撮影) 

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【続・灰色の記憶覚書(メモ)】演出家、長塚圭史さん=2011年7月6日、東京都世田谷区(大里直也撮影)

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 史上、最も寒い楽屋である。

 山形県は米沢駅から車で30分ほど行った川西町フレンドリープラザでご用意頂いた私の楽屋である。

 ■ネコだるまの歓迎

 演目が『十一ぴきのネコ』ということで、楽屋前にはネコをかたどった雪だるまが笠を被って、むんっと引き締まった表情で私を手招きしてくれている。恐らくこのネコも東京からの来客に多少なりともの緊張をしているのであろう。あるいは平成18年以来の豪雪に、この楽屋でひらひら気を抜いていると命を落とすことになるので心して使用なさいと警告してくれているのかもしれない。「長塚様楽屋」と黒テープによって書かれた立派な立て札は、私のような若輩者にはもったいないほど堂々としていて、入室をためらわせる。入り口には和田勉氏が描いてくださったかわいらしいネコたちが並ぶ今公演のチラシが貼ってあり、中には2脚の雪製椅子と1台の雪製円卓、卓上には煎餅と大変に冷えたペットボトルの水が置かれている。まあまずは一休みしてくださいということなのだろう。ネコだるまの後ろにぐさりと突き立てられたシャベルは、この楽屋準備に汗を流してくださった熱い誠意と、来客などあればさらに奥へと自由に掘り進めることができるということを示唆してくれている。何という心遣いでしょう。

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記事本文の続き …と、シャベルのくだりは、もちろん冗談である。私が劇場入りする2日前から立て込みをしている舞台スタッフが、川西町フレンドリープラザの皆様の協力を得て、なんと除雪車なども使って数時間かけて作り上げてくれた特製楽屋なのだ。何とも言えぬ歓待に私は「おはようございます! いいんですか、もう楽屋入って?」などと言いながら楽屋入り。撮影大会となった。生まれてこのかた目にしたこともないような豪雪を吹き飛ばすスタッフ陣のユーモアと、そのユーモアにさらりと応じる川西町の皆さんの温かさに、翌日の公演の成功を確信させてくれる出来事だった。そして事実、天気にも恵まれた公演当日は大いに盛り上がることとなった。

 ■自然と対峙しない不自然

 さて、生まれも育ちも東京の私にとってこの積雪量は圧巻であったことは言うまでもない。また驚かされるのはいたるところで行われている雪かきの風景である。偶然にも晴れた公演当日は日曜日であり、まさに絶好の雪かき日和となったのか、町では多くの人が屋根の上で雪下ろしの作業をし、また道路でも多くの除雪車が稼働されていた。しなくては生活が成り立たないからだ。この冬一度も雪下ろしをしていない空き家というのを見掛けたが、完全に屋根がひしゃげて、今にも崩れ落ちんばかりとなっている。また屋根の雪下ろしを怠れば家が潰れるだけでなく、雪崩を起こして、大事故に繋がる危険も大きいし、また氷柱なども定期的に処理しておかなければ落下などして非常に危ないのだと聞いた。要するに放置すれば容易に生活を脅かされてしまうのだ。

 そういった自然との対峙のないまま生きて行くことのできる東京との圧倒的な違いである。どちらが良いとか悪いとかいう話ではない。ただ自然と対峙することなく生きるということの不自然の中に生きているのだということに、われわれ都会で生活するものはもっと意識的になって良いのではなかろうか。

 ■営みを脅かすもの

 克雪という言葉があるそうだ。毎年何とかして雪を乗り越えるということだろう。それだけで尋常ではない努力と忍耐を要するのだ。そして乗り越えればまた春が来て、農作業も始まる。こうした営みを脅かしてはいけない。最も恐ろしいものは何なのか。境目もわからなくなるような、無限に続く雪景色を眺めながら、川西町で生まれた井上ひさし氏は何を思うのだろうかということが、ふと頭を過(よぎ)る。

 2011年3月11日、震度5の揺れがあったという。各地周辺が停電に悩まされた中、米沢市も川西町も事態を免れたのは、東北電力を引いていたからだった。

 (演出家 長塚圭史、写真も/SANKEI EXPRESS

       ◇

 ■ながつか・けいし 1975年5月9日、東京生まれ。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成。最近の主な演出作に「sisters」(2008年)、「荒野に立つ」(11年)など。ロンドン留学を経て、新プロジェクト「葛河(くずかわ)思潮社」を立ち上げた。今年は1月に「子どもとその付添いのためのミュージカル『十一ぴきのネコ』(井上ひさし作)」の演出を担当。3月には「ガラスの動物園」の演出が控える。

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