アムロが吠える、飛雄馬が燃える! 声優・古谷徹インタビュー(上)
2009/11/21 14:19更新
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「アムロ、行きます!」
人気アニメ「機動戦士ガンダム」シリーズで、主役のアムロ・レイが出撃するときに吐くこの名セリフ。声優の古谷徹さん(56)がその声を演じ、アムロは古谷さんの「代名詞」になった。声優の道に入って45年。その半生を書きつづった自叙伝「ヒーローの声」(角川書店)も出版され、好評を博している。古谷さんにガンダムに寄せる思いや声優業という仕事とどう向き合ってきたかを聞いた。(村上智博)
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記事本文の続き --今年は「機動戦士ガンダム」がテレビで始って30年目の節目。歴史を刻んできたことの重みをどう感じていますか?
こんなに長く、ガンダムが愛され続ける作品になるとは思っておらず、驚いています。文化人で影響を受けているファンも多いと聞き、うれしいですね。
ガンダムは戦争を舞台にしながらも、深い内容の人間ドラマに仕上がっており、登場するキャラクターがいずれも個性的。それが生き生きとリアルに描かれている。それに、見る人がそれぞれ、自分に何かを重ね合わせられるキャラクターがいるところも共感を呼んでいる理由だと思います。
--人気キャラのアムロの声を演じる上で、プレッシャーを感じたことは
プレッシャーというより、自分との戦いの連続でしたね。アムロに最初に出会ったのは25歳のころ。「巨人の星」の主人公、星飛雄馬(ひゅうま)を15歳でやったことが、声優人生を歩む上で大きかった。自分の中で星飛雄馬から“脱皮”したいと思い、大学を出た後、プロの声優としてプロダクションに入ってから、アムロには出会ったのです。
アムロは決して熱血ではない、ピュアでナイーブな少年。そんな役をうまく演じきれたら、星飛雄馬の呪縛(じゅばく)から解放されるのではと思い、集中して仕事に取り組んでいました。
--アムロと星飛雄馬とで、どのように声の違いを出したのですか
星飛雄馬に代表される熱血キャラでは、手で握りこぶしをつくり、力んで声を出していた。感情過多のキャラなので、オーバーな表現になるのをそこでは要求されました。
一方、アムロではリラックスし、日常会話のように力を入れずにしゃべるよう心がけた。本来なら音響を意識し、ある程度のボリュームでしゃべる必要があるのですが、アムロのときは違いました。独り言をつぶやくときには、マイクに声が入らなくともいいほど小さなボリュームで声を出した。逆に、敵と戦うときはマイクが壊れるほど大きな声で、死に物狂いで自分を鼓舞するようにして声を出した。「出撃したい!!」とか。声優としてアニメの声をするのではなく、自分自身が生身でアムロを演じるつもりで声に変化を付けながら、役作りをしていましたね。
--アムロの声はすぐに自分になじみましたか
アムロの第一声は「ハロ、きょうも元気だね」。少年がコンピューターに夢中でいるところに、自分の作ったハロが話しかけてきたから、ぼそっとそこでしゃべるせりふ。最初から戦闘状況であれば、肩の力を抜いて…という役作りはしにくかったと思いますが、日常的ないつもの朝という感じで、自然とできた。そのときに、アムロのキャラクターは決まりましたね。
--日ごろ、声優として気遣っていることは
何より、声のコンディションを健全に保つこと。毎日、朝晩にうがい薬でうがいをしている。いつも薬とのどあめを持ち歩いてもいます。
規則正しい生活をすることも大事です。マイクの前では、動くとノイズが入るのでじっとしているから、運動不足になりがち。だけど、声を出すと健康にいい。仕事がなければランニング、筋トレをなるべくやるようにしています。
--のどに優しい食事とは
「刺激物はよくないが、さほど意識はしていません。もともと、ぼくは甘党なんですよ(笑)。
--声優を職として選んでから40年以上のキャリア。これほど息長く続けられる極意とは
一つ一つ、出会ったキャラクターを大切に、できる限りのことをやろうと常に心がけていることだと思います。キャラクターの関係資料を集め、キャラのイラストを見て、実際に動いたりしゃべる様子を想像し、同じポーズを取ったりして役作りをしたり。どれだけ情熱を傾け、手間をかけるかでキャラは決まってくる。これまで演じてきた一つ一つのキャラクターが、自分にとっては生きた証です。
昔からアニメーションは見てくださる方々への影響力が大きいだけに、うかつには演じられないなと、いつでも一生懸命に演じてきました。スタッフや共演者に恵まれ、立て続けに一緒に仕事をさせていただいたりしたこともある。
時代に恵まれました。声優として大人まで夢中になれる「巨人の星」からスタートし、ガンダムに、と流れに乗った。それらがぼく自身の年齢にもマッチした。声優を始めたころはまだ、子供向けのアニメが中心でした。少年ヒーローを演じられる声優さんは少なく、子供の主人公の声は大人の女優さんが声を作り、演じていた。
でも、10代後半の主人公が増えてくると女優さんでは不自然になり、実際の若手声優が演じるようになった。そこにぼくがいて、うまくはまったんです。当時はヒーローができる声優はあまりいなかった。だからこそ、たくさん演じられたんだと思います。皆さんのおかけで、育てていただいた。感謝しています。
--声優デビューしたころと今の声質に、違いはありますか
昔の作品とはまったく違います。手前みそですが、当時、15歳で星飛雄馬を演じた古谷徹はスゴイと思う。少年らしさが十分に出ていた。アムロもそうですが、せりふの言い回しは決してきれいではないが、声の出し方がハスキー。懸命に感情表現をしようとしていたんですよね。
どうしても、長くキャリアを積み、テクニックが付くと、なくしてしまった何かがあると思うんです。今ぼくは、せりふなどで感情表現することが日常茶飯事です。呼吸するのと同じほど簡単にできてしまうんです。それほど意識せず、緊張もせず。
でも、昔は必死でした。「巨人の星」はぼくが出演したアニメーション作品の2本目で、声を合わせるのも必死でした。星飛雄馬は最初は小学生で、自分よりは年下でも、どんどん成長し、キャラクターがぼくの年齢を超えていく。だから、大人も演じなければならなくなる。そこでは、純愛ストーリーや勝負の世界なんて、自分の体験していないことを演じなければならなくなる。本当に必死で、その懸命さがせりふに出ていました。
15、16歳の少年アムロを演じていたのは25歳のとき。自分よりもほんのちょっと前の世代を、ああ、自分はこうだったなと思いだしながら演じていると、とても少年らしい言い回しができました。
具体的には、会話の中でせりふの語尾が流れるようになるんです。今、ぼくが感情を表現すると、音としてはっきりと聞こえるけれど、それを当時は聞こえないよう自然にやっている。そんなところが少年らしいなって思うんです。気持ちが先行していたのか、言葉があやふやになるんです。気持ちが伝われば、言葉ははっきりとはしゃべる必要はないと思ってたんでしょう。
でも、30歳を過ぎ、ナレーションの仕事を始めるようになったら、情報をはっきりと話さなければならなくなる。感情がない方が聞きやすい、そんな仕事を数多くやってきたから、無意識のうちにはっきりとしゃべるようになりました。
--それは安定感が増したということでしょうか
ゲームでアムロの声をとり直すたび、30年前の自分のせりふを聞き直したりすることがあります。でも、それは、想像しているものとは違う。微妙なトーンやスピードが違うんです。今ではまねができない。
今ははっきりと聞きやすいようゆっくりとしゃべっているんです。でも、かつてはすごく早口。少年らしく、決して人にこびていなかった。それって若さだなって改めて思います。25歳の古谷徹が、アムロに関しては、自分としては一番いいなって思います。
--かつてのアムロに戻りたいとの気持ちは
アムロをやるときだけは、昔と同じようにやりたい。だからぜひ、戻りたい。当時のガンダムは声優がそれぞれの役にはまっていた。だから皆さんに感動を与え、支持してもらえたと思いますね。
--アムロの役作りをめぐり、苦労したことは
アムロの声を出すときに、ぼくが必ず涙を流す場所があるんです。「マチルダさーんっ」て叫ぶシーン。心の中で何度も「マチルダさーん」って言い続けて、感極まったところで叫ぶんです。マチルダは自分を守ろうとして命を落としてしまった、アムロにとってはあこがれの女性。実際に演じるときにはまず、早めにマイクの前に立ち、何回も「マチルダさん、マチルダさん」と言って、気持ちを作る。実際に声を出す前に、ぼくの目からポタッと涙が出ていないとダメ。集中して、アムロの気持ちになりきるのが重要なんです。
■古谷徹(ふるや・とおる)=青二プロダクション所属=の経歴
年/出来事
昭和28年/横浜市に生まれる
34年/劇団「ひまわり」に入団
38年/洋画「ローマに咲いた恋」の吹き替えで声優デビューを果たす
41年/13歳でテレビアニメ「海賊王子」のキッド役でアニメ声優デビュー
43年/テレビアニメ「巨人の星」の星飛雄馬役に起用される
54年/テレビアニメ「機動戦士ガンダム」のアムロ・レイを演じる
60年/初めてナレーション番組「ENEOS(DIAMOND)SUPER STATION」を担当
61年/テレビアニメ「聖闘士星矢」のペガサス星矢、「ドラゴンボール」のヤムチャを演じる。神谷明、大森章督の後を継ぎ、「カーグラフィックTV」の3代目ナレーターを担当(いまなお継続中)
62年/テレビアニメ「きまぐれオレンジ☆ロード」の春日恭介を演じる
平成4年~/「美少女戦士セーラームーン」シリーズでタキシード仮面や月影のナイトなどを演じる
18年/劇場アニメ作品「パプリカ」(今敏監督)で時田浩作役
20年/テレビアニメ「キャシャーンSins」のキャシャーン役で、17年ぶりにテレビシリーズの主人公を担当
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