【本の話をしよう】「隠し事」作家 羽田圭介さん 物語はアナログから生まれる
2012/02/13 14:36更新
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作家の綿矢りささん(28)に続き、17歳の若さで文芸賞を受賞。一昨年には小説『ミート・ザ・ビート』が2度目の芥川賞候補となった期待の若手作家、羽田圭介さん(26)が『隠し事』を発刊した。
「中学生の弟が高校生の兄の机の中を盗み見るデビュー作『黒冷水』のテイストがいいという方が、今も結構、いらっしゃいます。原点回帰という意味で、現代人が今、他人が盗み見たくなるような“隠し事”をするとしたら、携帯電話の中くらいしかないのかなと思いました」
■携帯電話に疎い男に
携帯電話を重要な要素に掲げた本作の主人公は27歳の男性。ある夜、仕事を早く終えて帰宅すると、結婚を前提に同棲(どうせい)している彼女の茉莉の携帯が、机の上でメールの受信音を鳴り響かせていた。ディスプレーを見ると、そこには主人公の同級生の渡辺健太の名前が表示された。茉莉と渡辺はどういう関係なのか。茉莉は自分に何を“隠している”のか。主人公は本人に気づかれないよう就寝時間帯などを狙って茉莉の携帯の内容を“盗み見よう”と試みる。
「社会が何もかもシステム化する中で、一つの物語が生まれるのは、人間のアナログ的な行動だけじゃないかと思う」
27歳の主人公は、あえて携帯電話の機能に疎いアナログ人間に設定した。主人公は“盗み見”を続ける中で、茉莉の携帯メールを自分のメールアドレスに転送させる方法がわからず、ついには肉眼で見た茉莉のメールの内容を自分の頭で記憶しようとする。そして結局、茉莉と直接顔を合わせて対話するという原始的な方法で、“隠し事”の内容を知る。
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記事本文の続き ■デジタルに依存しすぎ
ストーリーを展開するうえで“アナログ”にこだわった理由はどこにあったのか。 「今、若い世代を中心に、インターネットのブログで自分をさらけ出そうとする人が多いですが、あれは結局、情報を発信しているように見えて、実は、それらを見てくれる他人からのリアクションそのものに充足し、思考放棄しているだけ。自分の問題点や弱点は、(アナログ的だけれども)自分一人で向き合うことでしか克服できない。デジタルシステムに依存しすぎて、今の若者は自分の問題の本質が見えていないと思いました」。まっすぐな瞳で、アナログ的な方法で物事を考えることの重要性を訴えた。
そんな羽田さん自身もアナログ人間だ。周りの同級生がスマートフォン(高機能携帯電話)を使いこなす中、自分は4年間、携帯の機種を変えていない。「個人的な内容のメールが、見知らぬ他人の管理しているサーバーに集積されている体制や、毎年、変化する料金体系の不透明さに納得できない。不満があるうちは新しい携帯を買う気はない」。若者にありがちなデジタル化の波にのまれることなく、どこまでも問題の本質を冷静に見極めようとする。
「これからも個人の身体性を軸にしたアナログ的な作品を描いていきたい」。デジタル世代の若い羽田さんが今後、どんな世界を描き、現代社会に切り込むのか。多くの読者の注目を集めることだろう。
(植木裕香子、写真も/SANKEI EXPRESS)
◇
■はだ・けいすけ 1985年、東京都生まれ。明大卒業。2003年に『黒冷水』で文芸賞を受賞し、デビュー。08年に『走ル』、10年に『ミート・ザ・ビート』が芥川賞候補になる。ほかに『御不浄バトル』『ワタクシハ』がある。
◇
「隠し事」(羽田圭介著/河出書房新社、1365円)
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