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【本の話をしよう】「ポーカー・フェース」作家 沢木耕太郎さん

2012/02/06 12:31更新

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「自分が書く物は時間に耐えて欲しいと思いますね」と話す、作家の沢木耕太郎さん(寺河内美奈撮影) 

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【本の話をしよう】「ポーカー・フェース」(沢木耕太郎著/新潮社、1680円)

記事本文

 《「酒場で話したくなる話のタネがたまっていた」/言葉の旅で出合うエピソード》

 1984年の『バーボン・ストリート』、90年の『チェーン・スモーキング』に続くシリーズ第3作目のエッセー集『ポーカー・フェース』が昨年、発刊された。

 シリーズ1作目が“酒”を示すバーボン、2作目が“たばこ”を表すスモーキング。「酒とたばこと来たら、女かばくちかなと思ってつけた」という3作目は、ばくちの一つ、ポーカーをするとき、参加者が持ち札の良しあしを相手に知られないよう表情を変えないことを意味する「ポーカー・フェース」とした。

 1作目から2作目が出されるまでが6年だったにもかかわらず、3作目は2作目から実に20年以上の時がたった。

 「2冊目を書き終えたとき、『話のタネ』の入っている箱を逆さにしてポンポンとたたいてしまったような感じがしていたから、もうこのスタイルのエッセー集は書けないと思っていた。しかし、気がつくと、空っぽになってしまったはずのその箱に、友人や知人に向かってつい酒場で話したくなるような『話のタネ』が、いつの間にか、ずいぶんたまっていた」

 ■作家・女優・歌手…

 13編からなるエッセー集では旅、酒、スポーツ、映画などを題材としている。一つのエピソードがまた別のエピソードを呼び起こし、最後に全体としてのテーマが浮き出てくる。ストーリーは、起承転結がはっきりしていない。展開も予想がつかない。読者はひたすらエッセーの中で描かれる“言葉の旅”に導かれるうちに、ぴたっと床運動みたいに目的地に着地する。

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記事本文の続き “旅”の途中で巡り合うエピソードは、出会った人との体験や、人から聞いた話など、心の中に沈潜されたものを厳選して描いた。作家の井上ひさしさん(1934~2010年)、女優の高峰秀子さん(1924~2010年)、歌手の尾崎豊さん(1965~92年)らビッグスターも登場するから、読者はワクワクしながら本作で描かれた“旅”を満喫してしまう。

 “旅”という言葉から、外国を旅するバックパッカーのバイブル小説といわれる『深夜特急』を思い描いた人も多いだろう。海外への一人旅は今もなお、続けている。

 「外国へ一人で旅に出ると、完璧に満足のいく食事がとれることはほとんどありません。それなのに、ものすごく歩く。一種の飢餓感みたいな不自由さや、日本では起こりえない困難を突きつけられることもある。それを切り抜けたり、解決方法を獲得しなければならない環境は、人間にとってすごく大事だと思うんだよね。若い時よりも、(対処法が分からない問題が減りつつある)今の方が、困難な中に身を置くことができる旅への思いが強いかもしれない」。常に“課題”を見つけ、追求しようとする思いは今も昔も変わらない。

 そして今、新たに関心を持っているのは、賭博の「バカラ」。長い箱にカードを入れた後、誰もカードに触れることができないバカラは、他のばくちと違い、勝負には誰も影響を及ぼすことができない。負ければ他の誰でもない自分が悪い。ばくちにおける“究極の無垢性”にひかれたという。「実は僕の楽しみが仕事につながりそうなんです」。次回作は、バカラに関するストーリーを描くようだ。果たして、どんな“言葉の旅”に連れて行ってくれるのか。今から目が離せない。

 (文:植木裕香子/撮影:寺河内美奈/SANKEI EXPRESS

       ◇

 ■さわき・こうたろう 1947年11月、東京生まれ。横浜立大卒業後、ルポライターとして活動し、70年に「防人のブルース」でデビュー。79年に『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞、82年に『一瞬の夏』で新田次郎文学賞を受賞。産経新聞連載の『深夜特急』は86年から新潮社で刊行され、バックパッカーのバイブル的存在となった。2006年には『凍』で講談社ノンフィクション賞を受賞。11年には初の短編小説集『あなたがいる場所』を刊行し、ノンフィクション、フィクションの垣根を越えて多くの作品を発表し続けている。

       ◇

 《井上ひさしさんとのエピソード》

 文芸春秋の小部屋で原稿を書いていたとき、同じく別の小部屋で原稿を書いていた井上ひさしさんが、ドアから顔をのぞかせ「やってますなあ」と一言。どちらが早く小部屋から“出所”できるか競争したという。

 《高峰秀子さんとのエピソード》

 名女優、高峰秀子さんの半生を描いた作品の文庫版の解説を書いて以来、個人的なつきあいが始まったという。「(『深夜特急』のような)もっときちんとした作品を書いてください」と、苦言を呈されたこともあった。

 《尾崎豊さんとのエピソード》

 雑誌の対談で、一度だけ話したことがあるという尾崎豊さん。娘がよく、尾崎さんが歌う「COOKIE」を口ずさんでいると話したところ、この曲をはじめ計3曲を、実際にギター一本で歌ってくれたという。

       ◇

「ポーカー・フェース」(沢木耕太郎著/新潮社、1680円)

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