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「心」を変えてヒトは進化する チンパンジーとの差極少

2009/11/13 07:16更新

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村上和雄氏 

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 【正論】

 2003年、ヒトの全遺伝情報(ゲノム)の完全解読が、10年以上の年月と世界各国の研究者の協力を得て完了した。生物学のアポロ計画と呼ばれるほどの大プロジェクトであった。

 それから2年後の2005年、ヒトに最も近い現存動物種であるチンパンジーのゲノムが解読され、ヒトゲノムの設計図との全体的な比較が行われた。

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記事本文の続き 地球上におけるどんな生物にも設計図があり、私たちをヒトたらしめた謎もまた、DNAに記録されていると考えられた。

 他の生物とのDNAの違いこそが人間らしさを示すものと誰もが期待していた。だが、チンパンジーのゲノム解読後、ヒトのゲノムと比較してわかったことは、意外にも、その差はわずか3・9%だった。ヒトゲノムの全長32億塩基対から考えれば、本当にわずかな違いである。

 もっと興味深い事実が判明した。それは、ヒトにあるが、チンパンジーには無いという遺伝子は、一つも発見されていない。このことは、ヒトという種を決める特別の遺伝子は無いことを意味している。

 それでは、ヒトとチンパンジーのゲノムの3・9%の差とは一体何かとの探索が行われた。

 これが分かれば、ヒトをヒトたらしめるDNA配列を探り当てることができる。

 ≪「遺伝子スイッチ」が重要≫

 探索した結果、その一つに、大脳皮質のしわの形成に関与する配列が発見された。興味深いことに、その配列はタンパク質をつくるためのDNAではなかった。

 以前は「がらくたDNA」と呼ばれていた部位にあり、現在では遺伝子スイッチのオンとオフの、タイミングや場所の決定にかかわるものと考えられている。

 全く「がらくた」だと思われていたDNAが、実は大変重要な働きをしていたのだ。

 このようなDNAは、脳以外でも見つかっており、ヒトの器用な手の動きにかかわる配列が報告されている。

 他にも、発話と強く関連する遺伝子において、ヒトとチンパンジーの間で、スイッチのオンとオフのタイミングや場所の違いを生み出す可能性のある変異が見つかっている。

 こうしたゲノム解読によって見えてきたのは、遺伝子スイッチの重要性だ。形態の進化を引き起こす最大の推進力は、遺伝子の基本的設計図の変異ではなく、オンとオフをつかさどる遺伝子スイッチの変化である可能性が高い。

 進化以外でも、生物の発生過程や、がんなどのさまざまな疾患において、遺伝子スイッチの重要性が指摘されている。

 そしてこの10年の間に、環境による影響、たとえば栄養分やストレスなどの感情が、DNAの基本設計図に変異を加えることなく、DNAの働きを変えることが明らかになった。

 遺伝子がオン・オフの機能をもつことは、もはや明白な事実であり、それは一生固定されたものではなく、与える環境によって変化する。

 その環境には、次の3つが考えられる。1つは気候変動などの物理的要因、2つ目は食物と環境ホルモンなどの化学的要因、そして3つ目は精神的要因である。

 私は精神的要因に注目し、「心と遺伝子は相互作用する」という仮説を2002年に打ち出した。

 ごく最近、笑いという陽性刺激が、糖尿病患者の食後の血糖値の上昇を抑え、その際、オンまたはオフになる遺伝子を発見した。この業績をもとに、世界で初めて博士が誕生した。

 ≪良い遺伝子をオンにする≫

 心にも、ある種のエネルギーがあり、「思い」や「心の持ちかた」が遺伝子のオンとオフを変えるという事実である。

 つまり、心の働きを変えるだけで、遺伝子レベルでも高次の人間に進化できる可能性があるということが分かり始めた。

 この事実は、人の生き方や考え方に、新たな望みを与えてくれる。なぜなら、人のDNAは自分で変更できないが、心は自分で変えられるからである。

 チャールズ・ダーウィンが『種の起源』を発表したのは、今からちょうど150年前のことだ。

 彼は「すべての生物は共通の祖先に由来し、自然淘汰(とうた)により進化した」ことを、自らの足で探索し、観察した膨大な事実をもとに発表した。

 そして今、ダーウィンの進化論を超える新しい進化論が生まれようとしている。

 私は、笑い、感動、感謝、生き生きワクワクした気持ち、さらには、敬虔(けいけん)な祈りまでもが、良い遺伝子をオンにすると考えている。

 これからの私たちは、意識して、よい遺伝子のスイッチをオンにすることで新しい人間性を生み出すことができる可能性がある。

 この新しい進化に貢献するのが人間の使命であり、すべての生き物の「いのちの親」の望みに添うのではないかと思っている。(筑波大学名誉教授・村上和雄)

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