内戦勃発になりかねないウクライナ危機の本質 佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)

 ウクライナ情勢が悪化した直接的な原因は、ヤヌコビッチ前政権の腐敗が著しく、それに対する異議申し立て運動を同政権が力によって封じ込めようとしたからだ。ただし、ヤヌコビッチ・グループを打倒し、首都キエフで権力を奪取した現政権も自由、民主主義、市場経済という欧米、日本が共有する基本的価値観を共有する勢力ではない。

 特に西ウクライナのガリツィア地方に基盤を持つ排外主義的なウクライナ民族至上主義者の危険性を欧米諸国は過小評価している。ガリツィアは1945年まで帝政ロシア、ソ連の版図に含まれていなかった。宗教も、儀式は正教と似ているが、ローマ教皇に帰属するカトリック教会(ユニエイト教会)が主流だ。

 この地域では、1950年代半ばまで反ソ武装闘争が行われていた。その後もソ連の支配を潔しとしない人々が海外に逃れた。亡命先として最も大きなコミュニティーがあるのはカナダで、約120万人のウクライナ系コミュニティーがある。カナダで英語、フランス語に次ぎ話されている言語はウクライナ語だ。1980年代末、ゴルバチョフのペレストロイカ(改革)政策でソ連人の外国人との接触条件が緩和されると、カナダのウクライナ人はガリツィアの親族、知人が展開するウクライナ独立運動を、資金的、政治的に支援し、現在に至っている。

 これに対し東部、南部に居住する人々は、日常的にロシア語を話し、正教を信じている。民族意識についても自分がウクライナ人なのかロシア人なのか詰めて考えていない。大多数の間でこの曖昧な態度が続いていることが、ウクライナという国の安定の鍵になる。

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