中野寛成・元民主党憲法調査会長「実現、与野党阿吽の呼吸でのみ」

【改憲再出発】

 憲法は国政の「土俵」です。理想を言えば与野党が全会一致で改正すべきでしょう。しかし、安倍晋三首相は改憲が思うように進まないことに焦っているように見えます。特に、7月の参院選で唱えた「憲法を議論する政党か、しない政党かを選ぶ選挙だ」という訴えは上から目線が過ぎました。そのような姿勢であるがゆえに、野党は「安倍政権下の改憲は認めない」と反発しているのではないでしょうか。

 衆院憲法調査特別委員会で委員長を務めた中山太郎元衆院議員(自民党)と僕は、「『与党の度量』と『野党の良識』の阿吽(あうん)の呼吸によってのみ改憲は実現できる」という認識で一致していました。つまり、野党第一党の提案を飲み込むくらいの度量が与党側になければ、憲法は改正できないということです。

 最近は「大声で叫ぶ=リーダーシップがある」というふうに勘違いされていますが、安倍さんには「大きな改革を成し遂げようとする人は静かに語れ」という言葉を贈りたいですね。

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 野党側にも「良識」が求められていることは言うまでもありません。立憲民主党の枝野幸男代表は旧民主党の憲法調査会長時代に「憲法提言」(平成17年10月)を取りまとめました。ここには各条文について何を変えるべきか、変えるべきではないかの考え方が網羅されています。このような基礎はあるのだから、「国民投票の際のテレビCM規制の議論を優先すべきだ」なんて言わずに、立民として憲法の「あるべき姿」を打ち出して、野党第一党の見識をアピールしてほしいですね。 

 僕の地元の大阪では日本維新の会が“与党”の座を自民党から奪うことに成功しました。中身の評価はともかく、政策を正面から訴える姿勢が多くの人の心を打ったのではないでしょうか。立民が改憲案を打ち出すことで、世間の見る目も変わると思いますよ。

 枝野さんは改憲派です。7月の参院選では護憲の共産党と手を結びましたが、あれは単なる選挙戦略であり、魂まで売ったわけではありません。与野党の規模の差が縮まって、ある意味で野党が憲法について与党と対等に交渉できる環境が整えば、自然と「度量」と「良識」が働く場面は出てくると思います。そうなれば立民は共産とおさらばせざるを得ません。

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 心配なのは、野党が国政選挙で負け続けていて、勢力が拮抗(きっこう)しないことです。功を急ぎすぎた旧民主党の幼稚な政権運営が、いまだ国民の脳裏に深く刻み込まれているのかもしれません。加えて、野党政治家の小粒化の印象も敗因の一つではないでしょうか。国民民主党の玉木雄一郎代表からは党首の風格が感じられないし、枝野さんも昔の方が明らかに落ち着きやスケール感がありました。

 特に枝野さんが野田佳彦さん(元首相)や岡田克也さん(元副総理)といったベテランを「過去の人」として遠ざけているように見えるのは気になります。旧民主党のイメージを払拭したいのかもしれませんが、考えを異にする政治家を飲み込むスケールを持たなければ政党としてこれ以上大きくなることはありません。度量が必要なのは野党第一党も同じ。与野党ともに党首が真のリーダーシップを欠いているため、今の政界はどこかギスギスしているように感じます。

 与野党はいま一度、「度量と良識」の精神を思い出すべきです。ただ、“中山方式”に対しては改憲派の中に「野党に譲りすぎて交渉は進まなかった」という批判もあると聞きます。与野党で同時に網を打ったまでは良かったですが、引き上げるタイミングを計りかねたというところはあったかもしれませんね。

 われわれの後継者をつくらなかったことも反省点です。「中山先生と僕、そして実は改憲に熱心だった仙谷由人元官房長官(故人)があと5年元気だったら…」という気持ちは今もあります。(内藤慎二)

 ■なかの・かんせい 昭和15年生まれ。51年に衆院初当選し、民社党、新進党、民主党などで11期務める間に民主党幹事長、衆院副議長、国家公安委員長などを歴任。民主党の憲法調査会長も務めた。平成24年に妻の介護への専念などを理由に政界を引退。25年に旭日大綬章を受章した。現在は評論家として活躍中。

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