「費用対効果評価」価格は効果に見合うのか 学者の模索 

 【高額薬再び 大きなリスクか 小さなリスクか】(下)

 ■価格は効果に見合うのか

 約3350万円の価格が付いた血液がんの治療製剤「キムリア」。厚生労働省は15日、「著しく単価が高い」として、本格的な「費用対効果評価」の対象にした。高額で市場規模の大きい薬が、本当に費用に見合うか効果を算出する手法だ。見合わなければ、数値に即して価格を引き下げる。

 手法自体は英国やフランスでも導入済み。だが、使い方はまちまち。導入に関わった学者からは“日本方式”への疑問が出る。

 横浜市大の五十嵐中(あたる)准教授(医療経済)は「日本のように、算出した数値を機械的に価格調整に使う国はない。数値だけで測れない要素を患者も交えて議論し、最終判断することが重要。この過程が不十分だ」と言う。

 今年2月、東京都港区で開かれた費用対効果評価の国際シンポジウムで、英国の評価機関「NICE(ナイス)」のディレクター、メンデント・ボイトン氏は1枚のイラストを示した。

 5人が寝ている大きなベッドに、左から1人が入ろうとして、右から1人が押し出される図だ。

 「予算が限られている場合、例えば抗がん剤に予算を使うと、リウマチに使えなくなるかもしれない。ベッドに入ろうとする人の便益は、出される人の便益より大きくなければいけない」。そして、こう強調した。「同時に、はみ出す患者を保護し、その健康に関心を持たないといけない」

 日本に欠けているのは、優先順位に向き合い、議論する過程だ。

 東京大大学院の田倉智之特任教授(医療経済)は「費用対効果評価が得意とするのは合意形成と意思決定。治療の優先順位はどれが高いのか、その実現にはどう負担していくのか。そういう議論が必要だ」と力を込める。

 一方、研究開発に携わる医学の専門家からは、企業頼みの製薬への疑念が生じている。

 名古屋大名誉教授で、名古屋小児がん基金の小島勢二理事長に昨年、海外の代理店から1通のメールが届いた。ある製薬会社が開発した新薬の市場調査が目的だった。

 「既存の治療なら、この疾患には年に約2千万円かかる。だが、われわれの開発した新薬なら、治療は1回で済む。価格はどのくらいが適当だと思うか」

 そのあとに、5千万円、1億円、2億円に相当する選択肢が並んでいた。

 小島理事長は、危機感を募らせる。「薬が高いのは、開発費がかかるからだと言われる。だが、実は製薬会社がベンチャー企業を買収した費用を上乗せしているからではないのか。このままでは皆保険はつぶれる」

 製薬会社が、薬の元となるシーズ(種)をベンチャー企業ごと買収する動きが活発だ。薬を商品化するには、効果と副作用を厳しく評価し、安定供給することが欠かせない。小さな企業には対応できないからだ。

 だが、小島理事長は「希少疾患を対象にしたバイオ製剤を、化学合成品と同様に考える発想が間違っている」と言う。患者の数が少ないなら、企業に開発を任せるより、大学発のバイオ製剤を患者に直接届けた方が合理的だというのだ。

 名古屋大学病院(名古屋市)は今月にも、血液がんの治療製剤「CAR-T(カーティー)」の臨床試験を始める。「キムリア」とメカニズムは同じだが、信州大と名大の特許による新製剤を使う。

 大学病院が開発する利点は、投与までの時間を短縮でき、一人一人に合う柔軟な治療ができること。名大病院の手法では、製剤の実費も100万円程度で済むとみる。ただし、効果と安全性の評価はこれからだ。

 同大大学院医学系研究科の高橋義行教授は「中国でも米国でも、大学病院でのCAR-Tの臨床試験が活発だ」と語る。背景には、研究者らの超高額薬への危機感もある。日本でまだ低調なのは、手続きの煩雑さもありそうだ。「規制のハードルがもう少し下がり、大学発の製剤が医療技術として認められる道筋が見えると、取り組む大学も増えるはず」。高橋教授はそう話している。

 この連載は佐藤好美が担当しました。

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