鮮魚列車は、宇治山田から大阪上本町まで途中、伊勢市、松阪、伊勢中川、榊原温泉口、伊賀神戸、桔梗(ききょう)が丘、名張、榛原(はいばら)、桜井、大和八木、大和高田、鶴橋の12駅に停車する。停車駅だけ見れば、特急並みだ。
しかし、鮮魚列車はこのほか、快速急行も停車しない東青山と河内国分の2駅で、客扱いを行わず、後発の優等列車に道を譲る「運転停車」があるのだ。
名張駅で運転士と車掌が交代し、さっきまでにぎやかだった3両目の女性たちも、いつしかロングシートの上で仮眠を取り始めた。
通過駅には通勤・通学客の姿も見える。朝の「ラッシュアワー」だ。しかし、朝日が差し込む車内はいたって静か。通勤・通学ラッシュとは無縁の世界だ。
■1秒で閉まる駅
午前8時9分、桜井駅に到着。ドアが開いたかと思うと、そのまま閉まった。
たぶん、ドアが完全に開いていた瞬間は1秒もなかったはずだ。乗降はまず不可能。何のためにドアを開けたのか。
関係者によれば、理由はこうだ。鮮魚列車の運転が始まった半世紀前は行商人の乗降があり、正式な「停車駅」だった。しかし、行商人の乗降がなくなって久しい駅もあり、こうした駅では、駅員が合図を送って車掌がドアをすぐ閉めてしまうのだという。