世界初のiPS臨床応用へ網膜再生 理研が国に申請

 理化学研究所は2月28日、さまざまな細胞に成長する人工多能性幹細胞(iPS細胞)で目の網膜を再生させる臨床研究を先端医療センター病院(神戸市)で実施する計画を厚生労働省に申請した。

 厚労相の了承意見を経て実施されれば、iPS細胞を使った世界初の臨床応用になるとみられる。厚労省は早ければ3月27日の審査委員会で審議を始め、結論が出るまで数カ月かかるとみている。理研によると、患者の選定や細胞加工は審査結果が出てから1年ほどかかり、網膜の細胞移植は2014年度になる見通し。

 研究責任者の理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の高橋政代プロジェクトリーダー(51)らが神戸市内で記者会見し、臨床研究の申請を「治療に向けた一歩を踏み出そうとしているところ」と説明。「研究生活が終わるまでには標準的な治療にしたい」と意気込みを語った。

 計画では、目の奥にある網膜が傷み、視力が急激に失われる「滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性」の治療法開発を目指す。患者自身の皮膚を採取してiPS細胞を作り、網膜の色素上皮細胞に成長させてシート状に加工したものを注射して移植する。

 人間への移植は初となるため、まずは異常が起きないかを6人の患者で確認するのが主な目的。今回の計画では、症状が進んで視力が相当落ち、既存の薬を使っても効果の出ない患者が対象のため、移植による視力の大幅な回復は見込めないという。本格的な視力回復を図るのは、より早期の患者に試す次の段階の試験になる。

 (SANKEI EXPRESS)

       

 ≪厚労省 迅速な審査へ特別体制≫

 厚生労働省で過去にあった幹細胞の臨床研究の審査では、結論までに平均約7カ月かかっている。前例がないiPS細胞の場合はより慎重な議論が必要とみられるが、厚労省は少しでも迅速に進めようと事前に特別な体制を組んだ。

 厚労省研究開発振興課によると、国の指針に基づいた幹細胞の臨床研究はこれまで計66件が認められた。第1号は2007年10月で、患者の骨髄から採取した幹細胞を心臓に移植して機能を回復させる大阪大の研究など4件。審査期間は平均約7カ月だが、3カ月弱~2年余りと幅がある。

 臨床研究を計画する研究機関は、内部審査を終えると厚労相宛てに計画書を提出。内容に新規性があると認められると、厚労省の「ヒト幹細胞臨床研究に関する審査委員会」で議論が始まる。

 委員会のメンバーは幹細胞研究者や法律家などだが、iPS細胞は作製過程で遺伝子の導入が必要なため、厚労省は遺伝子治療の専門家も加えることにした。遺伝子導入を使った臨床研究を検討する別の専門家会議での議論を省略し、できるだけ通常の幹細胞と同じペースで審査を進めるのが狙いだ。

 委員会が計画を妥当と認めれば、厚労相が「意見」として研究機関に返答し、臨床研究を開始できることになる。

 (SANKEI EXPRESS)

       

 ≪治療の発展願う≫

 ■山中伸弥京都大教授の話 「私たちのグループがヒトでiPS細胞の作製を発表してわずか5年ほどで、理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーらのグループにより、厚生労働省に臨床研究計画が申請され、大変うれしく思う。前例のない医療を実現するためなされた努力に敬意を表したい。これから厚労省が慎重に審査し、iPS細胞を用いた治療が適切かつ着実に発展していくことを願う。今後も京大iPS細胞研究所は、高橋さんの臨床研究に協力していく」

 (SANKEI EXPRESS)

       

 ■人工多能性幹細胞(iPS細胞) 皮膚や血液など、特定の機能を持つまでに成長した細胞に数種類の遺伝子を導入して、受精卵に近い状態に戻した細胞。ほぼ無限に増殖させることができ、培養の条件を変えることで心臓や神経など目的の細胞に変化させることができる。事故や病気で機能を失った部分を修復する再生医療や薬の開発への応用が期待されている。山中伸弥京都大教授が2006年にマウスで、07年にヒトで作製を報告し、12年にノーベル医学生理学賞を受賞した。

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