台風19号 震災で妻子犠牲、今回は農作物被害…相次ぐ試練も「必ず復旧させる」 宮城・大郷町の農家、阿部聡さん(41)

 台風19号で浸水被害を受けた宮城県大郷町でミニトマトなどの栽培を営む農業、阿部聡さん(41)=東松島市=は、平成23年の東日本大震災で被災し、家族5人が犠牲になった。震災からの再起を目指し、約1年前に同町へ仕事の拠点を移した矢先、今度は台風によって農作物が大きな被害に見舞われた。自身を襲った度重なる試練。それでも阿部さんは「必ず復旧させる」と前を向く。

 阿部さんは農業法人「イグナルファーム大郷」を30年10月11日に設立。同法人の代表として、1・1ヘクタールのビニールハウス内でミニトマトや長ネギを栽培している。だが、今回の台風により施設内部が1・2~1・5メートル浸水。作物、肥料に加え、施設内部の温度、湿度管理を担うパソコン3台も被害にあった。

 「ようやくまとまった量を出荷できる時期だった。今期の出荷は見送るしかない」。そう話す言葉には悔しさがにじむ。阿部さんの試算によると、施設などの被害額は約1億5千万円。「(設立から)こんなにも早く水害に襲われるとは…」。自然災害の脅威を前に、うなだれるしかなかった。

 近隣の東松島市出身の阿部さんは震災当時、同市内でトマトとキュウリを中心に栽培していた。震災では海沿いの自宅が津波にのまれ、自身は民家の屋根まで泳いで一命を取り留めたものの、妻、長女、長男、次女、祖母を亡くした。

 家も家族もすべて失った失意の中で、阿部さんは23年12月、知人農家とともに同市内で農業法人「イグナルファーム」を設立した。「イグナル」は東北地方の方言で「良くなる」の意味。「関わる人、東北を良くしていこう」(阿部さん)という思いを込めた。

 その後は取引先も順調に増やし、ミニトマト収穫の充実を図るため、29年には企業誘致を行っていた大郷町に栽培の拠点を作ることを決意。昨年稼働したハウスではミニトマト約80トン、長ネギ約120トンの収穫に成功し、今年はいずれも約2倍の収穫量を見込んでいたという。

 今回の台風によって大きな犠牲を再び強いられることになったが、阿部さんは「(法人の)職員の生活を守るためにも、早期の復旧を目指す。来年3月にはミニトマトの苗付けをしたい」と力を込める。「時間はかかるかもしれないが、何年かかろうとも必ず復旧させる」。その言葉は決意に満ちていた。(塔野岡剛)

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