「アップル」戦略に影響も…島野製作所が提訴

地位乱用…ファブレス戦略に影響も

 米アップルにパソコン向けの部品を供給してきた島野製作所(東京都荒川区)が、アップルを独占禁止法違反と特許権侵害で訴えた民事訴訟の第1回口頭弁論が今月中旬、東京地裁で開かれる。島野の主張によると、不当なリベート要求など下請けに対する「優越的地位の乱用」があったという。時価総額で世界最大の企業を日本の中小企業が訴えるという異例の展開だ。自社工場を持たないアップルは、世界中の取引先と関係を深めてサプライチェーンを構築する手法を取るだけに、裁判の動向次第で波紋が広がる可能性もある。

 島野は、ポゴピンと呼ばれるピンなどを製造・販売する精密部品メーカーで、売上高は数十億円。米インテルや韓国サムスン電子などと取引があり、電気信号のスムーズな伝達や耐久性に優れたピンを製造する技術を誇る。

 9年前にアップルの担当者から打診があり、島野は「1次サプライヤー」として取引を始めた。アップルのノートパソコンに接続する電源アダプター側の端子を製造。世界中で使われるパソコンの販売に支障が起きないように中国、タイ、日本(北海道)の3工場で万全の供給体制を整備。双方が利益を得る取引で、アップルとの信頼関係は強固だった。

 変化が起きたのは2012年。訴状や証拠資料、島野側の主張によると、アップルがピンの増産を求めてきたため、設備拡充や2次サプライヤーとの増産体制の調整を急いで進めた。しかし、増産体制を整えるやいなや、アップルはピンの発注量を減らしてきたという。

 島野はアップルに、(1)他のサプライヤーからもピンの供給を受ける(2)島野と取引している2次サプライヤーと取引する-場合、それを島野に知らせるという約束をさせていた。島野にとって、アップルとの取引は極めて重要で、発注量の減少は死活問題だ。またピンをつくるためにノウハウを伝える2次サプライヤーに、間接的に自社の技術を使われては「オンリーワン」の技術を維持できない。この約束は、巨大企業と取引する島野が自社や取引先を守るための知恵だった。

 しかしアップルはこのとき、島野の2次サプライヤーである海外企業にピンをつくらせており、両方の約束を同時に破っていた。その上、その会社は島野の特許権を侵害していたとされる。取引再開を求めると、アップルは従来の半額以下への値下げを要求。やむなくこれに応じたら、アップルはさらに信じられない要求をしてきたという。

 「約159万ドル(当時の1ドル=102円程度で計算すると約1億6220万円)のリベートを振り込んでほしい」。資料によると、13年5月のメールだった。値下げ前に島野から購入しアップルの在庫になっていたピンの数に、値下げ分の金額をかけた額だといわれた。島野は支払わざるを得なかった。

 これに対し島野は、すでに販売したピンの値下げを不当に要求してきたもので下請けに対する優越的地位の乱用に当たり、独禁法違反だと主張している。島野は今年8月、提訴に踏み切った。特許権侵害やリベートなどによる損害賠償と、対象となるアダプターやそれを同梱(どうこん)するパソコンの日本での販売差し止めを求めた。同社幹部は「物事には越えてはならない一線がある。約束を破ったことや不当なリベートといったアンフェアにはどうしてもノーと言わなければならない」と話す。和解はせず、あくまで自社の主張を伝えていく考えだ。欧米での提訴も検討している。

 アップル側は、この訴訟についてコメントしていない。両社の取引が始まった後の07年、アップルは初代スマートフォン「iPhone(アイフォーン)」を発売。スマホで世界を大きく変えた同社の業容は急拡大し、11年には時価総額で米エクソンモービルを抜き去り首位に立った。今月4日の終値ベースでは6773億ドル。1ドル=120円で計算すると約81兆2760億円でトヨタ自動車の3倍超だ。

 島野は「アップルは取引開始当時とは変わってしまった。企業は大きくなったが、人や内部管理体制、コンプライアンス(法令順守)が追いついていないのではないか」(幹部)と指摘する。同社側の溝田宗司弁護士は「取引にはルールがある。そのルールが破られたとき、どう対処すべきか。これは“技術立国”日本を支えるデバイスメーカーに共通する問題だ」と話している。(高橋寛次)