「化学調味料」に生じたネガティブイメージ…味の素の“名誉回復”に社長自ら立ち上がった

 ■化学調味料不使用の幻想

 MSGに対する不信感は海外でも強く残る。米国で先の論文が発表される前年の68年、中華料理店で食事をした後に脱力感やしびれが出たという“健康被害”が席巻し、その原因調査で先の論文が活用された。米国民の間にMSG不信が広まり、飲食店のメニューや加工食品で「No MSG(MSG不使用)」との表示が広まった。諸外国でも、米国が発信源となったとみられる、「動物の骨から作られる」「(髪の毛が抜けて)はげる」などのMSGへの誤ったイメージが残る。

 西井氏にも体験がある。2年前のナイジェリア訪問でレストランに入り、「味の素」を見せて知っているかどうかを尋ねると、「AJINOMOTO」は知られていた。しかし、MSGだと説明すると「MSGはポイズン(毒)だ」との返事があった。80~90年代のアンチMSGの動きの中で、「(MSGに対するネガティブなイメージが)おばあちゃんから母親、娘へと受け継がれていった」と、西井氏は推察する。

 ■放置できない理由

 同社は昨秋、米ニューヨークで栄養学や歴史学の研究者、著名な料理人、メディアなどを招いたセミナーを開き、米国発の負のイメージを払拭するための一歩を踏み出した。フォーラムの内容が報道されると、米国内で「No MSG」の表記が徐々に消え始めたという。米国での情報発信を強化するため、3年間で1000万ドル(約11億円)を投じる。日本での投資額は明言しないが、活動を強化する。

 同社によれば、MSGは2018年度に世界で326万トンが消費され、年率2%の伸長が予測される。1食2グラムの使用で計算すると、世界約130カ国で約2600億食の食事に使われたことになる。

 ここにきて、国内でもうま味調味料への追い風が吹いてきた。競合他社の商品に、「化学調味料不使用」「化学調味料無添加」と表示されている点については、一部の食品メーカー・団体が必要以上のアピールをやめている。消費者庁も、加工食品の食品表示のあり方について有識者会議を設置し、現状分析を始めた。

 味の素は、1908年の池田菊苗博士の研究で誕生し、社名ともなった商品に対する名誉回復に挑んでいる。(経済本部 日野稚子)

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