老朽化した住宅を1棟丸ごとリフォームし新築のように再生する、住友不動産の「新築そっくりさん」が存在感を高めている。建て替える場合に比べて費用を最大で半分に抑えられるなど住宅業界の常識を覆し、今や年間1000億円規模のビジネスに成長した。リフォーム市場は参入企業が増えているが、「提案力」に磨きをかけて競合他社との差別化を図る。
いまや1000億円事業に
「建て替え費用の半額で1棟丸ごとリフォームするような商品をつくれば、売れるのではないか」。住友不動産が新築そっくりさんを売り出したのは平成8年4月。きっかけは、当時の高島準司社長(現在は会長)がその前年の会議で発したひと言だった。
7年の阪神大震災では、築年数の古い住宅の多くが耐震性などで問題を抱えているにもかかわらず、高額の費用などが壁となって建て替えがままならない状況が浮き彫りになった。主力のオフィスビル賃貸やマンション分譲に続く新規事業の育成が課題となっていた中、高島社長には「地震に強く、しかも完全定価制で建て替えをせずに住宅を再生できないか」との思いがあったようだ。
古い家は建物の状態も千差万別。社内では、「もとの構造を生かしながら大規模リフォームするのは、建て替えよりも工事が難しく、費用もかさむ」という声が主流だったが、高島社長は「建て替えの半額で、しかも耐震補強工事を行う」と、非常識への挑戦を指示した。
「古い家は仕組みや状態をよく把握しないとリフォームできない。ひたすらケーススタディーを積み重ねた。200棟は調べた」。新築そっくりさんの事業化を技術面で支えた新築そっくりさん戸建事業部技術センターの神山邦英氏はこう振り返る。
調査対象としたのは、自社の再開発地域に残っていた、築20年や25年の戸建て住宅。建築構造や間取りの特徴を分析するとともに、長い年月を経るとどの部位がどう傷んでいるかなどを徹底的に研究し、データを蓄積していった。
住宅業界の常識覆す
本社に近い東京・西新宿にあった古い戸建て住宅を「実験棟」とし、実際に大規模リフォームに取り組んで問題点を洗い出した。当時、営業担当の吉田直樹氏(現在は埼玉西事業所長)は現場に一日中立ち続け、「(低コスト化を実現する上で)どういう職種の職人がどういう動きをするのか、丹念に探った」。
約1年後に基本モデルが完成し、建て替えに比べて費用を約50~30%減らせる道筋がついた。
「活用できる資材はそのまま使う、というのが基本」。新築そっくりさん戸建事業部長の中野誠氏はこう説明する。例えば、台所や浴室といった水回りは基本的に設備の交換が必要となるが、基礎や柱などは再利用しやすい。建て替えでは必須となる外構工事や屋外の給排水工事なども省ける。これにより、建て替え時に比べ、かかる費用を最大で半分に抑えられる。
前例のない商品だけに、発売前は社内にも消費者に受け入れてもらえるのか半信半疑の見方があった。だが、8年4月9日のある新聞で新築そっくりさんの記事が掲載されると、その日の朝は全国から問い合わせの電話が殺到し社内の電話回線がパンク。一転、「これはいける」との期待が高まっていった。
広がりを見せる顧客層
累計の受注棟数は9万棟を超え、25年度の売上高は年間で初めて1000億円の大台を超えた。中野氏は「ライフスタイルを踏まえ、顧客がどんな住まいにしたいのかを知り、積極提案することが競合との差別化につながる」と語る。
新築そっくりさんは、商品の認知度が高まったところにリフォーム技術の進歩や営業態勢の充実が重なり、顧客層が当初の中高年から若い人たちにも広がりをみせている。国が中古住宅の取引活性化に向けた取り組みを進める中、住まいの質の向上にも一役買いそうだ。(森田晶宏)
国内の住宅リフォーム市場
調査会社の富士経済によると、平成25年度の市場規模は消費税増税前の駆け込み需要で、前年度比7.0%増の8兆3365億円。26年度はその反動減が響き、5.6%減の7兆8735億円に縮小したとみられる。29年度には、4月の消費税率10%への引き上げの影響が再び見込まれるが、富士経済は「既存住宅の活用が進めば住宅リフォームへの投資も活発化する」として、8兆円規模を維持するとみている。
