大みそかの夜は「マッチ売りの少女」の夜

 デンマークの生んだ大童話作家アンデルセンは、イタリアに滞在した経験を基に1835年、森鴎外の名訳で名高い小説「即興詩人」を書き上げた。その13年後に、貧しい少女時代を送った自分の母親をモデルに珠玉の名作「マッチ売りの少女」を発表した。あの童話の舞台こそ、明日夜、つまり大みそかの夜なのである。

 雪空の下で寒さに震えながら一人の少女がマッチのバラ売りをしていた。マッチを売り切らなければ父親に怒られるので家に帰ることもできない。だが、買い物袋を抱え家路を急ぐ人たちは少女に目もくれない。

 少女は少しでも暖を取ろうとしてマッチを1本擦った。すると、目の前に暖炉とごちそうの並んだテーブルが現れた。雪空を仰ぐと流れ星が流れた。祖母が「流れ星は誰かが消えていく証拠だ」と話してくれたことを思い出す。

 もう1本マッチをすると、その祖母が姿を現した。少女は祖母の姿が消えないようにと、残りのマッチ全部を燃やした。祖母は少女を抱きしめたまま、天国に昇っていった。元日の朝、人々はマッチ売りの少女がほほ笑みながら凍え死んでいるのを見つけた。

 現代にも、同じように貧しい少女は多い。人情が紙のように薄いのもまた、今も昔も同じである。(坂本鉄男「イタリア便り」)

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