【産経抄】ノーベル賞選考に日本人差別なし 10月3日

 物理学者の湯川秀樹が昭和24(1949)年に、日本人として初めてノーベル賞を受賞したことは誰もが知っている。ただそれ以前にも、血清療法を創始した北里柴三郎や黄熱病の研究で知られる野口英世ら、候補に挙がった日本人も少なくない。

 ▼そのなかでもっとも賞に近づいたとされるのが、病理学者の山極勝三郎である。その生涯を描いた映画が昨年末に公開されて、話題になったばかりだ。東京帝大教授だった山極は、ウサギの耳にコールタールを塗り込んで、皮膚がんの発生に成功する。

 ▼もっともそれより2年早い1913年に、デンマークのフィビゲルが寄生虫に感染したゴキブリをネズミに食べさせて、胃がんを作ったと発表していた。2人は26年のノーベル医学・生理学賞の候補者として最後まで残り、フィビゲルが受賞する。ところが26年後、フィビゲルの研究の誤りが明らかになった。ノーベル賞の歴史の汚点の一つに数えられる。

 ▼山極は、世界初の人工がんの作製者の栄誉を取り戻した。それでも、「幻のノーベル賞」に終わったことに、日本の学界としては納得がいかない。日本人だから、差別されたのではないか。そんな疑問の声が根強く残った。

 ▼ただ科学史の専門家によると、戦前であってもノーベル賞の選考はおおむね公平に行われてきた。まして21世紀の科学の世界で、国籍や人種によって研究成果の評価が変わるとは、とても思えない。ここ数年のノーベル賞の日本人受賞ラッシュを見ても、明らかである。

 ▼今年も、医学・生理学賞を皮切りに、ノーベル賞の発表が始まった。日本人ははしゃぎすぎ、との批判の声もある。わかっちゃいるけど、夕方のニュース速報に一喜一憂する、特別な1週間である。

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