【甘口辛口】時代を越えて楽しめる「ザ・ファイト」 スポーツを活字で伝える意味とその価値

■10月1日

 米誌「プレイボーイ」創刊者のヒュー・へフナー氏が91歳で亡くなった。米国がまだ保守的だった1953年に創刊、美しいヌード写真や硬派なインタビュー、小説などで多くの読者を獲得した。日本版発売は75年7月。多感な田舎の中学生にとって、ずっしり重いオールカラー上質紙の1冊は衝撃的だった。

 創刊号のプレイメイト(今でも覚えている)は後に「チャーリーズ・エンジェル」にも出演したナンシー・キャメロン。インタビューにはダスティン・ホフマンやピーター・フォンダらが毎回のように登場した。そんな初期の目玉連載が米作家ノーマン・メイラー氏の「ザ・ファイト」。

 題材は8カ月ほどさかのぼる74年10月30日、ザイール(現コンゴ民主共和国)の首都キンシャサで行われた王者ジョージ・フォアマンと挑戦者モハメド・アリのプロボクシング世界ヘビー級タイトルマッチ、「キンシャサの奇跡」。当時の米国を代表するカリスマ作家が密着取材したノンフィクションだ。

 40勝無敗37KOを誇った25歳の王者の強打を、32歳のアリが妙技「ロープ・ア・ドープ」でかわし、消耗させ8回KO勝ち。もはや歴史の一部となった世紀の一戦の1カ月以上にわたる舞台裏を、まだ余韻が残る時期に、アフリカの土のにおいまで伝わる筆致で読ませてくれた。

 訳者は直木賞作家、生島治郎氏。中学生には難解で、それを読んで記者を志したわけでもないが、超一流に触れた感覚だけは確かにあった。メイラー、生島、アリの3氏はすでにこの世を去ったが、傑作は時を越え今も繰り返し読める。スポーツを活字で伝えることの意味とその価値を信じることができる。 (親谷誠司)

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