【正論】次になすべきは外務省の反論だ 東京基督教大学教授・西岡力:イザ!

2015.1.15 05:02

【正論】次になすべきは外務省の反論だ 東京基督教大学教授・西岡力

 虚偽報道に基づくいわれなき非難により、国際社会の中で日本と日本人の名誉が著しく貶(おとし)められている。朝日新聞が慰安婦問題について事実と異なる報道をしていたことを認めた今、次になされるべきは外務省の責任追及である。

 ≪事実調査よりも謝罪を優先≫

 1991年夏以降、朝日が日本人活動家らとともに展開した慰安婦キャンペーンに煽(あお)られ、92年1月、訪韓した宮沢喜一首相は盧泰愚大統領に何と8回も謝罪した。

 私は外務省北東アジア課の幹部に「宮沢首相は権力による強制連行を認め謝罪したのか。貧困により慰安婦にならざるを得なかった女性らの不幸な境遇に同情する意味で謝罪したのか。もし後者ならばなぜ、戦前、吉原などで働かざるを得なかった日本人女性に謝罪しないのか」と質問した。その答えは「これから調べる」だった。

 私は「奴隷狩りのような慰安婦強制連行を実行したとしている吉田清治証言をどう評価するのか」と2つめの質問をしたところ、答えは「その点もこれから調べる。しかし、加害者が嘘をつきますかね」だった。

 権力による強制連行があったのか調べもせずにまず謝罪したのだ。この驚くべき無責任さは昨年に政府が行った河野談話作成過程の検証でも明らかにされている。

 宮沢首相の謝罪後に行われた慰安婦問題に関する日本政府の調査の結果、朝鮮における慰安婦強制連行は発見されなかった。ところが日本のマスコミのキャンペーンで火がついた韓国の民族感情を抑えるため、韓国政府は「強制」を認めてほしいと強く求めてきた。そうすれば慰安婦への支援は韓国政府が行うという条件だった。そこで外務官僚が頭を絞って強制の定義を「自分の意思に反して慰安婦になったこと」と拡大した。河野談話がよくない点は、朝鮮における権力による強制連行は発見されなかったという最も大切な事実を明記しなかったことだ。

 この間、外務省は国際社会に事実に反する日本非難が拡散することに対して、「朝鮮で権力による強制連行はなかった。吉田清治証言は虚偽だ。性奴隷制度と慰安婦は全く異なる。一部元慰安婦の強制連行証言は事実関係の矛盾があり裏付けが乏しい」などと、当然すべき反論をしてこなかった。

 ≪日本の立場、説明も反論もせず≫

 96年、国連人権委員会が任命した調査官であるクマラスワミ氏が、吉田証言などを根拠に奴隷狩りのような強制連行の存在を前提として、慰安婦を性奴隷と規定する報告を提出した。このとき外務省は一度、関係国に伝達した反論文書を撤回して、「日本は慰安婦問題について河野談話などで繰り返し謝罪をし、償い事業のためアジア女性基金もつくった」という趣旨の弁解に差し替えた。それ以降、外務省は同じ弁解だけを繰り返し、事態は悪化し続けた。

 2007年には米国議会下院が、クマラスワミ報告の事実認識をほぼ下敷きにして、日本政府を非難する決議を採択した。このとき、下院が開いた公聴会には元慰安婦や反日活動家らが出席したが、日本の立場を主張する外交官や専門家は一人も参加しなかった。それ以降も、米国で開かれている議会やシンクタンクの慰安婦問題などに関する議論の場に、日本政府を代表する人間が出て事実関係をきちんと説明する作業を一切しなかった。

 そしてここで大書特筆したいのは、朝日が誤報を認め、安倍晋三政権が国際社会に広がった事実に反する認識に反論するという方針を明らかにした後も、外務省はそれを実行していないことだ。

 ≪「国際広報の敗北」究明を≫

 外務省のホームページを開くと歴史認識というコーナーがある。日本語と英語で書かれた日本政府の基本的立場の説明だ。そこに慰安婦という項目がある。一番最近そこにアップされたのが「慰安婦問題に対する日本政府のこれまでの施策(平成26年10月)」だ。ここでも河野談話以降、〈日本政府は機会あるごとに元慰安婦の方々に対し、心からお詫びと反省の気持ちを表明してきた〉〈お詫びと反省の気持ちを…表す(ため)「女性のためのアジア平和国民基金」が設立された〉などと書くのみで、誤解に対する反論はない。

 最近、駐米大使や総領事などが米国マスコミに「反論」を掲載しているが、その内容も事実関係の誤りに踏み込まず、ただ日本はこれまで何回も謝ってきたという従来の主張を繰り返すものだ。

 外務省は500億円を予算計上して、国際広報を強化するという。その中にはジャパンハウスという施設を世界主要都市に作ることも含まれている。これまで、国際広報に失敗してきたのは施設がなかったからではなく、外務省がただ謝るのみで事実に基づく反論をしてこなかったからだ。

 まずなすべきことは慰安婦問題など歴史認識問題でなぜ、事実に反する日本非難が広がったのか、国際広報の敗北の原因を究明する作業だ。事実に踏み込んだ反論の発信なしに予算だけを増やすのは優先順位が違うと強く訴えたい。(にしおか つとむ)